ブックタイトルagreeable 第12号(平成21年10月号)

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概要

agreeable 第12号(平成21年10月号)

Agreeable 2009/10 10小学生の頃、教科書に載っていた「ファーブル昆虫記」で糞ころがしの研究や蟻の行列に石を置いたらどうなるかなど、誰でも一度は昆虫採集や観察に夢中になった頃があったのではないでしょうか。今回は、その様な昆虫や生物の生態を調査し観察研究をされている宇都宮靖博様をご紹介いたします。・この業界に入ったきっかけ私が勤務する「株式会社 環境指標生物」は生物の調査会社です。「道路を整備する」、「空港を建設する」、「鉄道を建設する」等、規模の大きい工事前には前もって様々な環境調査を実施する必要があります。その中の生物(虫、鳥、魚、動物、植物等)を対象とした調査を行う会社です。調査により「どのような生物が生息しているのか」、「工事によりそれらはどうなるのか」等の生物に関する情報をできる限り集め、保全・保護に役立つ資料をまとめるのが仕事です。この業界に入った理由は、「生物好き」ということに尽きます。とは言うものの、ずっと生物と関わり続けた訳ではありません。多くの方々は子供のころ、昆虫採集を経験したことがあるのではないでしょうか(近年は全く無いという方もいらっしゃるようですが)。しかしながら、大人になる途中で止めてしまう人が多く、私も同様でした。生物は好きだったのですが、関わりを持つことはなくなりました。大学に進学後、農学部昆虫学研究室に入り、「昆虫採集」を再開しました。と同時に、昆虫採集の楽しさに虜となりました。話はそれますが、昆虫同好会なるものが各地にあります。そこでは80歳近くなってもなお、精力的に採集を続ける方々がいます。それほど魅力的な趣味なのです。いつの頃からか昆虫採集しながら飯を食べることができたら「こりゃ幸せ」と思うようになりました。そのような折りに恩師の紹介でこの業界に入ることとなりました。・調査の中で思ったこと調査は趣味とは異なり、河川敷、住宅地、造成地等、個人的な採集で訪れることのない環境で実施することが多々あります。当然、採集できる昆虫類はモンシロチョウ、ナナホシテントウ、アブラゼミ等ごくありふれた種です。正直、面白くない場所もあります。「大したものは見つからないだろう」とタカをくくって採集していると、「ええ?こんな種がいるのか?」という場面に何度か出くわしました。自然からのしっぺ返しを食ったと痛感します。また、「こんな場所に、これほど多くの種類が生息しているとは」と思い知らされることもよくあります。「自然は侮れない」、気を抜くことができないのが、この仕事かな?とよく思います。・環境変化と昆虫の関わり最近、特に多くなってきたのが外来種と言われる「本来そこに生息していなかった生き物」です。ブラックバスやブルーギルは有名ですが、昆虫でも非常に多くの種類が見つかります。目新しいところでは一昨年、九州を中心に大発生したクロマダラソテツシジミです。フィリピンや台湾などに分布する種ですが、昨年は西日本各地でも確認されました。本種の幼虫はソテツを食べ、食われた新芽はボロボロになります。ヨツモンカメノコハムシも九州で分布を広げつつあるようです。本種は南西諸島に分布する種で、サツマイモの害虫となりそうです。また、ハネビロトンボ、ベニトンボのように、時折、見つかっていたトンボも、最近は多くの個体を見かけることがあります。環境の変化に連動していると短絡的に片付けてしまうと問題はあるのでしょうが、温暖化の影響が疑われても仕方がないところです。南から分布を拡大する種とそれらの生態について、少しずつデータを蓄積できれば、環境変化のバロメーターとして使えるかもしれないと少し思います。・人類と昆虫の共存普段の生活の中で人間と接する昆虫は、ご存知「シロアリ」、「ゴキブリ」、「ハエ」、「カ」など、害虫や不快昆虫と呼ばれる仲間です。これらは国内に生息する昆虫のごくごく一部で、ほとんどの昆虫類は普通の生活で目にすることは少なく、関係はないと考えている人が多いと思います。すなわち、人間と昆虫は利害を伴うか否かという観点で関係の有無が決まってしまいます。しかし、日常生活で利害関係を伴わない(と思われている)昆虫との関わりは極めて重要かつ密接なものです。昆虫と関わりなく生活をしている人はいないのです。簡単な話ではハチの仲間。ミツバチや、オオスズメバチは人間との利害関係が大きいハチで、よく知られています。しかし、ヒメハナバチ、コハナバチ、マルハナバチ等のあまり馴染みのないハチはほとんどの人は知りません。これらのグループは植物の受粉に大きく関与する種を含みます。もし人間の都合(農薬散布、森林伐採等)で、この仲間が消滅したとすると、実をつけなくなる植物が出ると考えられ、食糧問題をはじめ様々な問題が起こることが予想されます。普段の生活では関わることのない種に、きわめて深刻な関係を持つ種が含まれているのです。この1点だけでも、昆虫との共存なくして人間の生活を考えることはできないと言えるでしょう。極めて大きな生物の連鎖の中では、人間も昆虫も同じ鎖の一部と考えます。庭の草を食べている虫も大きな鎖の一部です。「こいつらがいなくなると、もしかして…」と考えると少し愛情を注いでみようかなという気にはなりませんか? とは言え、台所を走り回るゴキブリはいかんともし難いですが…。地球温暖化と共に北上しているイエシロアリや、各所で発見されているアメリカカンザイシロアリのようにシロアリも日本各地に被害拡散を続けています。近年、環境の変化や物資流通の発達で生物や昆虫などの生態が著しく変化しています。その主導者は私たち人間なのです。こ の 人四国支部 友清白蟻山辺利成クロマダラソテツシジミヨツモンカメノコハムシハネビロトンボ