ブックタイトルagreeable 第19号(平成23年7月号)

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概要

agreeable 第19号(平成23年7月号)

Agreeable 2011/7 12最近のロンドンはまた日が長くなり、夜の10時まで明るいです。最終回の今回は、私が滞在している「土壌動物多様性研究部門 SoilBiodiversity Group」について紹介します。研究者たちが居るダーウィンセンターは9階建てで、最上階の9階は共用休憩室です。その真下、実質の最上階にコクーンをやや見下ろす形で土壌動物多様性研究部門はあります。仕切りのない大きなスペースが、各自の机がある研究スペースと標本作製や顕微鏡観察をおこなう作業スペースに分けられており、別棟に巨大な標本庫があります。10数年前にここを訪れた時は、まだダーウィンセンターもなく、シロアリの研究者だけで構成された「シロアリ研究部門」なるものがあったのですが、現在は人員削減と予算削減の波を受けて、クモ、ムカデ、ゲジ、ゴキブリ、ミミズなどが一緒になって「土壌動物多様性研究部門」です。研究者は一人ずつ机があり、皆パソコンや文献と一緒にそれぞれの研究対象の置物が並べられています。ゴムでできた巨大なゴキブリだったり、シロアリ塚の模型だったり。ですから、どこが誰の机かが一目瞭然です。分類学研究で必要なものを挙げるとすれば、それぞれの種が記載された時に使われた標本(タイプ標本といいます)と、その記載論文でしょう。最新テクノロジーを使った研究だと必要とする論文も最近のもので、そのほとんどがオンラインで入手できるでしょうが、分類学ではそういうわけにはいきません。時には19 世紀後半に出版され、英語でも日本語でもない論文をかき集めなければなりません。日本にいるとそれらを入手するのに大変な労力を要します。しかし、ここは昔からシロアリ分類学者が多く、世界中の論文と標本が集まります。博物館の図書館はロンドンの3か所に分かれており、世界中の雑誌が閲覧できます。また、研究室の一角にある別刷りコレクションが素晴らしいです。日本でなかなか入手できないものや、図書館にもない論文が数多く保管されています。研究中に急に読みたい文献が出てくるとすぐ隣にあるという、分類学者にとって夢のような環境です。論文だけではありません。ここには、多くのシロアリのタイプ標本を含め、世界中のシロアリの標本が保管されています。別棟にある液浸標本庫は、スタッフパスと特別の鍵がないと入れない上に、二重扉になっており湿度温度管理が行き届いています。巨大なスペースに何百もの標本棚が設置され、シロアリは棚2列に分けて、属名ラベルがついたトレイに種名のアルファベット順に並べられています。シロアリは液浸標本なので管理が大変です。ここ1年間の私の仕事は、自分の研究以外にはこの標本のメンテナンスだったような気がします。人員削減で全ての標本をチェックする人がいない上に、昔のシロアリのコレクションなどそうそう見る人がいないので、アルコールが減ってしまったり、瓶にひびが入っていたりした標本もあります。今回のわたしの目的がこのシロアリコレクションを虱潰しに見ることだったので、おのずと1年間限定シロアリキューレターになったわけです。おかげで、自然史博物館のシロアリコレクションはすっかり位置まで把握してしまロンドン便り№3Agreeable AgreeableApril2011竹松葉子山口大学・農学部土壌動物多様性研究部門Soil Biodiversity Group写真1 (左)顕微鏡と標本が並ぶ作業スペース             (右)棚の上に飾ってあるシロアリ塚と巨大ゴキブリの模型