ブックタイトルagreeable 第23号(平成24年7月号)

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概要

agreeable 第23号(平成24年7月号)

ではない。コンプライアンスはあくまでも組織の対応として合理的かつ体系的に実践していくための方策である。経営者自らがコンプライアンスを重視した経営姿勢を打ち出し、これを組み立てていくために陣頭指揮をとることがまず必要である。コンプライアンスが経営者の決意なくしては始まらないのも、それが組織全体の課題だからであり、経営者でなければコンプライアンスのための内部統制システムを構築することは出来ない。 コンプライアンスの理念は、これを具体化して、組織の末端の従業員にまで浸透させていく必要があり、組織で働くあらゆる人々が主体的に取り組むことがコンプライアンス成功の必須の条件である。法令の枠にとらわれずに幅広いルールを広い視野で把握し、それぞれの企業にとって望ましいあり方を模索するには、組織的な取り組みが必要である。公正なルールのなかで信用を勝ち取ろうと指向して日々努力をすることが求められており、企業組織として、高い信用・信頼を維持していくことがコンプライアンスの目的となる理由である。コンプライアンスは、企業価値を高めるために不可欠のものであり、企業に対する本物の信用を生みだすことが企業にとってコンプライアンス推進の動機となる。(一般的な市民道徳とのちがい) 倫理や道徳は、心の問題だから、わざわざ勉強する必要がないという考え方がある。しかし企業倫理の場合は、一般的な倫理や道徳とは異った内容のものであり、一般市民道徳と矛盾する場合もある。故に一般市民の道徳から考えることによって、かえって企業倫理の観点からすれば間違いとなる場合もある。例えば仲間同志で話し合って対立を避けることは一般的には道徳的なことであるが、企業社会においては、法律的には、同業者で話し合って競争しないようにすることは、禁止された談合などの温床になりやすく、独占禁止法に違反する可能性もある。また上役に礼を尽くす、失礼なことは言わないということは、一般的な社会では道徳的なことである。しかし企業では、会社の抱えている問題を批判できないとか、あるいは上役や先輩方に遠慮してチェック機能が遂行できないでは困る。本来の忠実義務は、企業が望ましい方向に発展していくように行動することであり、上役等の保身に奉仕することではない。 このほか共同体(企業)の倫理と市場の倫理とで内容が異なるものとして、何か困難な問題に直面した際に、どのように対処するかという場合で、市場の倫理からいえば、自分で熟考し、最善策を取ることになるが、企業倫理からすると、企業社会では、むしろ専門家(弁護士とか会計士とか、その道の専門家など)に相談して1つ1つ確認しながら対処する、つまり第三者に意見を求めることが重要である場合が多い。 このように企業倫理は、一般市民道徳とは異なることから意識してこれを研究し、トレーニングを積まなければ実践していくことが難しい。我国では職業倫理が一部の専門職(医師の医療倫理、弁護士倫理─非行と認められれば懲戒の対象となり、倫理研修は義務化されている。)に限られており、企業倫理といっても精神論にとどまるようなものが多く、体系的・理論的な整理もできていないのが現状である。したがって企業経営者にも一部の専門家の倫理と同じように経営者倫理を含む企業倫理があるわけで、問題意識を持ってコンプライアンスの手法を通じて内部を統制していくことが強く求められている。内心だけの問題ではなく実践的な活動が必要なのである。以上「6才の男の子は、なぜ死んだのか」 2004年3月、R ヒルズのタワービル入り口の回転ドアに6才の男の子が頭を挟まれて死亡するという事故が発生した。この事故の原因は、回転ドアの回転速度と事故防止センサーの設置位置の問題でした。当時建築関係法などによる法規制はなく、回転速度については、メーカーオプションで毎分2.8?3.2回転の範囲で設置者が選んでよいとなっていた。ビルの運営者等が来訪者数から割り出したスピードは3.2回転であった。一方センサーの設置位置は、当初地上80センチでしたが、誤作動が多いという理由で120センチに変更された。事故にあった男の子の身長は117センチでしたのでセンサーは感知できなかった。事故はなぜ起きたのでしょう?「来訪者をスムーズにさばく」「誤作動を少なくする」という企業側の都合が優先され、回転ドアを使う人の身になって考える安全、安心の視点が不十分だったのではないでしょうか。実例(3)agreeable No.23 july 2012/7 12