ブックタイトルagreeable 第23号(平成24年7月号)

ページ
4/22

このページは agreeable 第23号(平成24年7月号) の電子ブックに掲載されている4ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

agreeable 第23号(平成24年7月号)

シロアリによる繊維の消化:微生物共生系 前回は、社会性昆虫としてのシロアリのおもしろさについてお話しました。第3回目の今回は、シロアリの能力を人間社会に活かす取り組みについて紹介したいと思います。 第1回目の連載で、「シロアリ」が枯木、枯枝、落葉などの植物遺体の分解者、すなわち「バイオ・リサイクラー」として重要な役割を持っていることをお話しました。これは、シロアリという昆虫が、木材の約半分を占めるセルロース(=繊維)を効率よく消化・吸収することができるという能力によるものです。繊維は普通、人間を含む高等動物だけではうまく消化されません。完全に消化できる能力を持っているのは、主に細菌類や菌類などの微生物です。では、シロアリはどのようにして繊維の消化を行っているのでしょうか。この秘密が微生物との消化共生系にあります。 シロアリの消化管は、口から食道、そのう、前腸、中腸、後腸へとつながります。このうち、中腸が人間の胃に相当し、後腸が人間の腸に相当します。ヤマトシロアリの消化管を引き抜き、膨潤した後腸部分をハサミで切ると、そこからはぎゅうぎゅう詰めになった微生物が溢れ出してきます(写真)。実は、この微生物が繊維の消化を行っているのです。ヤマトシロアリやイエシロアリでは、後腸の微生物として写真で示した原生動物とともに細菌類、特にらせん状菌(スピロヘータ)が多く認められます。一方、熱帯サバンナに多いシロアリ塚を造るシロアリでは、細菌類だけが後腸の中に生息しています。また、キノコシロアリと言って、巣の中でシロアリタケというキノコを栽培し、木材の分解を手伝わせているシロアリも熱帯・亜熱帯のアジア・アフリカにいます。余談ですが、シロアリタケは大変美味しいキノコです。いずれにしても、シロアリは微生物との共生関係を築くことによって、非常に効率良く繊維の消化を行っているのです。詳細なメカニズムの紹介は省きますが、微生物の働きによって、酸素がない条件のもと繊維が酢酸と二酸化炭素と水素に分解され、シロアリはこの酢酸をエネルギー源として吸収していると考えられています。ここで、シロアリ共生微生物による繊維の消化によって水素が発生することを覚えておいて下さい。シロアリセルラーゼの利用 繊維の消化は、セルラーゼと呼ばれる一群の酵素によって行われます。先ほど述べたように、シロアリの消化管に共生する微生物はセルラーゼを生産します。また、シロアリ自身もある種のセルラーゼを分泌することが確かめられています。これは日本の研究者が世界で最初に証明しました。一般的には、繊維はいろいろな種類のセルラーゼが共働的に作用することによって分解されます。例えば、繊維をランダムにバラバラにするセルラーゼ、繊維の端から切り取って行くセルラーゼ、ある程度バラバラになったものを最終的にブドウ糖にするセルラーゼなどです。先ほど述べたシロアリ微生物は、こういったセルラーゼをすべて持っていますが、不思議なことに、シロアリ自身はある程度ゆるんだ状態になった繊維だけを分解できるセルラーゼしか生産していません。この理由は、シロアリが「そのう」で木材をすりつぶし、繊維をゆるんだ状態にすることができるからだと考えられています。 もしこのシロアリセルラーゼ京都大学生存圏研究所 吉村 剛シロアリの知識写真 ヤマトシロアリの後腸から溢れ出してくる微生物(原生動物)第三回シロアリの能力を 人間社会に活かすagreeable No.23 july 2012/7 2