ブックタイトルagreeable 第25号(平成25年1月号)

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概要

agreeable 第25号(平成25年1月号)

 ◎発生源の追求 刺咬性昆虫の発見により、お婆さんが必死に話していた虫刺さされが真実であり、発言のすべてが事実に基づいていたことが明らかとなりました。お婆さんは決してノイローゼなどではなく、至って健全だったのです。 こうして何とかすべての問に回答することができたのですが、ここで新たな疑問が生じました。虫の発生原因です。アリガタバチ類は他の昆虫に寄生して繁殖する寄生蜂の仲間です。めったなことで多発生する虫ではありません。ではなぜ、こんなにたくさんのアリガタバチやタバコシバンムシが発生したのか? ヒメマルカツオブシムシの天敵であるキアシアリガタバチも多数確認されたのはなぜか? これらについて何らかの共通の発生源があるのではないかと考え、改めてお婆さんから夏ごろの部屋の様子について伺いました。 お婆さんはお花が好きで、ガーデニングとドライフラワーを趣味とされていました。リビングのテーブル上や壁一面にドライフラワーを飾り、バルコニーでは鉢花を手摺が隠れるほど沢山飾っていたというのです。この状況からアリガタバチ2種の発生源は、室内に飾られたドライフラワーに発生したタバコシバンムシとヒメマルカツオブシムシであると断定しました。乾燥植物質を好むタバコシバンムシとヒメマルカツオブシムシが多発生し、それら虫の臭いに誘引されて飛来したアリガタバチが寄生し繁殖したものと推察されました。お婆さんは、まさか装飾のドライフラワーから虫が発生しているとは思いもしなかったそうで、掃除の際は埃を払う程度に留めていたとのこと。ドライフラワーは繊細で壊れやすいことから、ごく当たり前なのですが、これが虫の発見を遅らせ被害を助長してしまったようです。なにはともあれ、これを以て今回の害虫調査を無事に終えることができました。 ◎独り暮らしの苦悩 調査を終え、お婆さんの話を聴いて一つ一つなぜそう感じたのか尋ねてみました。すると、前述の見えないものを老眼鏡で再確認しなかったことに想像すらし得ない深い理由があったのです。それは、「独り暮らし」の苦悩でした。 お婆さんは独りが故に、「虫に襲われて倒れたりでもしたら大変」「この虫が他人様に感染したりしたら大変」「自分ではどう対処したらよいか分からない」「万一、これが原因で死んだら残された犬や家の後始末が大変」「自分の不注意で多くの方々に迷惑が掛かる」などと人一倍周りに気を使われていたのです。その結果、万が一の場合を考えてとった行動が、「殺虫剤の自己処理」「人と会わない」「専門業者への依頼」「家やホテルから極力出ない」「物を捨てる」だったのです。身寄りが無いそうで、周りに相談できる親族や友人も無く、独りで迫りくる「死」の恐怖に孤独な戦いを強いられていたのでした。自分でできる限りのことを施し、それでも不安を取り除くことができず、たどり着いたのが「マンションの売却」と「介護付き特別養護老人ホームへの入居」そして、「NPO 生前契約等決定機構との契約」でした。お婆さんのとった一連の奇怪な行動には、その根源に「他人様に迷惑を掛けず人生の幕を下ろす」という強い想いがあったのでした。真実を知り、ろくに確認もせずノイローゼのお客様でカウンセリングが必要…などと軽率に思っていた自分が情けなく、お客様に接する姿勢の未熟さを思い知らされました。 ◎大切な学び 今回の害虫調査を通じてお年寄りとの接し方について学ばせて頂きました。大切なことは「一言一句を聞き漏らさないよう、聴くこと」。ただ聞いているだけではなく、聴いて、その発言の理由を尋ねてみることが先入観の誤解を解き、世代間の認識の差を埋め、真の問題解決に繋がるきっかけになるのだと感じました。 私の経験が読者の方にほんの少しでもお役に立てば幸いです。写真4 玄関照明のガラスカバー上で発見されたタバコシバンムシとアリガタバチ2種写真5 ヒメマルカツオブシムシの天敵 キアシアリガタバチ写真6 シバンムシアリガタバチの宿主 タバコシバンムシ住まいの害虫対策Vol.113 agreeable No.25 January 2013/1