ブックタイトルしろありNo.153

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しろありNo.153

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概要

しろありNo.153

( )しろあり年月緒言近年,昆虫類の移動に関する話題が,新聞や専門誌などの誌面を賑わせているように感じられる方は意外にも多いのではないだろうか。ご存じのように,昆虫類の分布は自然分布と人為分布に大別される。前者は元からある種がある地域に生息(存在)していることを指すが,最近は地球温暖化との絡みで南方に生息する種が北上傾向にあるなどの報告が多数なされており,従来とは意味合いが変わりつつあるようだ。さまざまな昆虫で“北進”が確認されているが,特に目を引くのが,ナガサキアゲハやツマグロヒョウモンといったチョウ類である)。こうした昆虫類の中には栽培作物を加害する種も含まれており,侵入地域においての作物被害も各地で知られている)。また,その地域における侵入種が生態系に与える影響も複数の研究者によって指摘されている。他方の人為分布は,人間の影響によってある種の分布が分散能力域外にまで広がった状態のことを指す。さらに人為分布の原因は,意図的導入と非意図的導入に区別される。意図的導入とは人為によって自然分布域外に生物を移動・放出することを指し,後者はそれらの中の故意でない移入を意味する。農業における花粉媒介昆虫として有益なセイヨウオオマルハナバチ( )や生物的防除に使用されるコバチ類が意図的導入の代表例である。もう一方の非意図的導入について概観すると,ここ数十年は特に国内外を問わずに物流が活発であるが故に,多数の事例がさまざまな昆虫類で報告がなされている。特に問題とされているのが,特定外来生物に政令指定されている昆虫類やその他の害虫である(シロアリを含む)。例えば,毒を持つうえに農畜産害虫,生態系撹乱者として知られるヒアリ類)や芝を食害するシバオサゾウムシ)などは著名な例として知られている。これらは主に貨物船などの船舶や航空機,自動車,さらには電車などの物流に何らかの形で紛れ込んで移入される)。本報告では,筆者が実際に目撃した非意図的導入の起こり得た経緯を定期船おがさわら丸を例に挙げて述べ,どのようにして人為によって昆虫類が分布を広げていくのかを考察していきたい。筆者が行った調査によって,本船の甲板上では実に種もの昆虫類が確認された。しかしながら,ここでは本誌の性格上,そのうちイエシロアリ種のみを扱い,他は別の機会に発表の場を譲ることにしたい。イエシロアリとはイエシロアリはミゾガシラシロアリ科に属する種である(写真)。国内では本州・四国・九州・琉球・小笠原諸島から記録がある他,国外では台湾や中国に分布し,ハワイ・アメリカ南部・アフリカや太平洋の島々などにも分布を拡大している)。生態などの詳細は会員諸氏もよくご存じなので割愛したい。なお,最新の研究によると,系統上,シロアリ目はゴキブリ目の中に含まれるようであり,シロアリ目が消滅する可能性が指摘されている)。おがさわら丸についておがさわら丸(写真)は,小笠原海運が所有する東京都港区の竹芝埠頭と小笠原群島父島の二見港を結ぶ週往復の定期船である。全長は,総トン数はにもなり,現役の内航在来型貨客船としては最大・最高速を誇る。しかしながら,竹芝父島間は約もの距離があり,片道でおよそ時間半もの航行時間を要する。採集日周辺の運航状況本船は基本的に東京と父島を往復するのみである報文おがさわら丸船上で採集されたイエシロアリの有翅虫山本周平