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しろありNo.153

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概要

しろありNo.153

の遺伝子型は,ほぼすべてホモ型( か)となる。つまり,創設女王が何らかの劣性有害遺伝子を保有していた場合,単為生殖の子は%の確率で,その有害遺伝子を発現することになる。有害遺伝子を保有していない単為生殖の子だけが生き残って二次女王になることができる。単為生殖は二次女王の生産に限定されているので,創設女王が保有していた劣性有害遺伝子は二次女王を経由する際にすべて除去され,次世代に伝わることはない。ヤマトシロアリのコロニーは特定の成長段階で必ず単為生殖による女王置換を行うため,すべての世代で強力にパージングがはたらいている。よって,ヤマトシロアリでは,その繁殖システム故に集団中に有害遺伝子が蓄積しにくいと考えられる。このパージングの強度はそれぞれの遺伝子座がホモ接合になる確率,すなわち,組換え価に依存する。末端融合型のオートミクシスの場合,組換え価の低い遺伝子座ほど,パージングの作用は強くなる。応用的考察ヤマトシロアリの繁殖生態の実態が解明されたことにより,害虫管理の視点からもいくつかの新たな考察が可能である。まず,創設女王が単為生殖によって多数の二次女王を生産していることは,害虫として主につの問題を大きくしている。まず,産卵する個体の数が数十から数百倍になることで,コロニーの成長速度が大きく増す点である。次に,二次女王がいくら増えても,これらは創設王とは非血縁であり,近親交配を完全に回避して有性生殖を行うことができる点である。つまり,コロニーが古くなると,近親交配のサイクルに入って遺伝的に劣化するという楽観はできない。ヤマトシロアリ属のように複数箇所の巣(採餌場所)を蟻道で連結しているものは,コロニーサイズの正確な推定が困難であるが,野外の成熟コロニーでは少なくとも数十万個体に達する。女王個体での産卵速度は限られているが,多数の女王を保有することで,高い卵生産能力を維持している。筆者も含めて,コロニーの巣分かれ増殖( )の可能性については,これまで誤解してきたと言わざるを得ない。母巣から離れた有翅虫による独立創設とは別に,巣の一部が母巣から分裂して新たな巣を形成する巣分かれ増殖が高い頻度で起きているであろうと推測していた。しかし,今回,実際に野外で採集したコロニーはほぼすべて独立創設の単純家族( )であり,創設王を含んでいた。また,遺伝子解析により,創設後に新たな王を外部から取り込むことは決してないことも判明している。つまり,巣分かれ増殖が自然状態で起きることはきわめて稀であり,また,稀に起きたとしても,そのようなコロニーは長く存続できないことを意味する。創設王が二次王に置換したコロニーでは近親交配が不可避であり,ワーカー集団の遺伝的劣化はコロニーの存続にとって不利となる。近親交配を行わざるを得なくなったコロニーでは,産まれる子の大半が有翅虫に分化する分散フェイズに移行すると考えられる。この繁殖生態の解明により,ヤマトシロアリの駆除において生殖中枢を破壊することがきわめて重要であることが明らかになった。周辺部のワーカーをいくら駆除しても,中枢の創設王と二次女王を駆除しない限り,巣は健全な状態で存続し続ける。逆に,ワーカー集団の一部が残ったとしても,創設王や二次女王が駆除されたコロニーは,かろうじて補充生殖虫の近親交配で一時的に繁殖を継続したとしても,遺伝的劣化(ヘテロ接合度の急落)により長期的なコロニーの存続はできない。つまり,ワーカーの部分集団が残存することによって大規模な再発が生じる可能性は低いが,喩え僅かな残存集団であっても生殖中枢(王と女王)を駆除できていなければ,確実に増殖し,大規模な再被害を生じることになる。複数箇所営巣性のヤマトシロアリの場合,巣の周縁部から薬剤を浸透させる駆除技術では中枢が残存する可能性が高く,確実に生殖中枢に薬剤を到達させる技術が不可欠である。引用文献)松浦健二( ) 真社会性昆虫の社会と性,日本生態学会誌, ,) ( )( ),)( )( )