ブックタイトルしろありNo.153

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しろありNo.153

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概要

しろありNo.153

非意図的導入は起こり得なかった。しかしながら,甲板上では種の生存している昆虫を確認したことから,生きたイエシロアリが潜んでいた可能性も否定できないだろう。ここで問題になるのが,一体どこでイエシロアリが船内に紛れ込んできたのか,ということである。おそらく,密閉されたコンテナ貨物内ではなく,甲板上で翅アリのみが得られたという状況から推察するに,停泊あるいは航行中に飛来して密航した可能性が高いものと考えられる。とはいえ,航行途中に伊豆諸島などの離れた場所から侵入することは考えにくいので,停泊地で侵入した個体であると考えるのが妥当であろう。というのも,国内では風に乗ってシロアリが以上移動したという報告はないからである)。本種は竹芝埠頭のある東京都区部でも少ないながら報告がなされている他,父島においては大発生していることが知られている)。さらに硫黄島でも侵入が確認されたので(吉野弘章氏私信),これら箇所の停泊地の中から侵入経路を特定するのは難しい。しかしながら,筆者は往復路両方でイエシロアリを発見したことから,父島で紛れ込んだ可能性が高いものと判断している。本種の有翅虫は月頃の蒸し暑い夜に群飛し,灯火によく集まることが知られている)。それ故,夜間に停泊中だった本船の灯火に引き寄せられたのではないだろうか。中国の珠江内では河船のシロアリ被害率が%にも達しており),日本でもクルーザーからイエシロアリの生息が確認された例が知られている)。このような事例からも,船舶にシロアリが侵入することが多々あることが分かるだろう。木製の船舶では単なる発見に留まらずに船内で発生する可能性もあり,特に注意を要する必要がある。もし,本船に生きたイエシロアリが潜み,船から停泊地などに移入が生じた場合を考えてみたい。例えば竹芝でそれが起きた場合,従来知られていなかった地域で確認される可能性が考えられる。現在,東京都区部における本種の発生は極めて局所・散発的であるが,他地域からの個体の供給は発生を恒常的にするかもしれない。さらに東京は物流の要であるから,東京以外の地域に運ばれ,被害を及ぼす可能性も十分に考えられる。特に近年はさまざまな昆虫類が北上しているので,これまで記録のない地域でも温暖な気候を好むイエシロアリが生息可能になっていることも考えられる。それゆえ,それらの地域においても注意を払うのが望ましい。この例のように,他の昆虫(生物)でも知らない間に物流などに紛れ込み,これまで知られなかった地域に運ばれる可能性は十分に考えられる。その後,移入された地域に定着するかどうかは定かではないが,なるべく人為移動の存在を念頭に置き,できる限り非意図的導入が起きないように努力する必要があるだろう。しかしながら,小笠原諸島へのシロアリの移入に関しては,米軍や自衛隊,民間の船などが運搬する物資に紛れて持ち込まれた可能性,船に直接侵入した固体が偶然広まった可能性などさまざまな理由が推測できるので,小笠原にシロアリが侵入した経緯を知ることは困難である。以上のことから,今回,船上でイエシロアリが得られたとはいえ,船が直接の原因となって小笠原に侵入を許したと断定することはできない。あくまでも可能性のつに過ぎないことをこの場で断っておきたい。要約本報では,東京と小笠原諸島を往復する定期船おがさわら丸甲板上で採集されたイエシロアリについて報告した。発見された頭は発見時にすべて死亡していたが,停泊時に生存していた場合には非意図的導入が起き得る可能性があったことについても言及した。謝辞執筆にあたり,小笠原におけるシロアリ調査の機会を与えて下さったうえに本稿執筆を勧めて下さった吉野弘章氏(吉野白蟻研究所),同定・校閲をお引き受けして下さった森本桂博士(九州大学名誉教授)に厚くお礼申し上げる。また,本稿の校閲をして下さった丸山宗利博士(九州大学総合研究博物館)にも謝意を表したい。参考文献)北原正彦( ) チョウ類の分布域拡大現象と地球温暖化,昆虫と自然, ( ),)斉藤明子・尾崎煙雄・盛口満( ) 千葉県におけるクロマダラソテツシジミの初記録と発生初期の( )