ブックタイトルしろありNo.154

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しろありNo.154

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概要

しろありNo.154

る間に腐る(死ぬ)かも知れないということを,初めから折り込み済みのようだ。そのことは,次章で考えよう。自然界から攻撃される前に自ら一部の細胞に死んでもらう私達が利用しているスギやヒノキのような高木と呼ばれる樹木は,自分の背丈を早く伸ばして太陽のエネルギーをいち早く獲得することに一生懸命なのだろう。その結果,樹木は体を支える幹を中心に巨大化するが,生きるためのエネルギーを獲得する葉の集まり(光合成をする)は空間的に大きさが限られる。限られた量の葉で得られたエネルギーには限りがあり,葉と枝を支えてくれている巨大化した幹のすべてに栄養を配るわけには行かなくなる。すなわち,樹木がある大きさ(或いは樹齢)に達した時,樹木全体の生存を考えると,幹の内側にまでエネルギーを配給するわけに行かず,内側部分はミイラのようにして封印することになる(図)。このイメージは, 樹形のパイプモデル)を引用すると理屈にあうかも知れない。幹の内部の封印( )図樹木パイプモデルと樹木内部の死(心材化)現象を樹形のパイプモデルに当てはめてみる。樹木(樹皮は簡便のため無視する)は,光合成をしてエネルギーを得る葉と,地中から水を吸い上げて葉に運ぶ根を繋ぐパイプ(広葉樹では道管,針葉樹では仮導管という組織がパイプに当たる)が集合したものと考えられる。樹木の樹冠(枝葉の付いた樹幹の上部)をなす枝は光が当たらなくなると下部から枯れ上がり,樹齢とともに枝下高は高くなり,心材率が高くなることが測樹学的に示されている)。すなわち, 葉と枝が枯れ上がると,根との間を繋ぐパイプの機能は不要となり,そのパイプは幹の内部に取り残され細胞の死を迎えると考えることができる。ちなみに,このパイプモデルは,欧米ではダ・ヴィンチ・ルール(既に世紀に,レオナルド・ダ・ヴィンチは, 本の木で,その高さの各段階におけるすべての枝の太さを合わせたものは幹の太さに等しくなると言明)と呼ばれているそうだ)。樹木の細胞の死と生立木の腐朽ここでは,上で述べた細胞の死と封印,および生立木の腐朽について考えよう。木材組織・材質の専門分野では,樹幹内部の細胞の死を心材化といい,その現象やメカニズムは重要な基礎研究テーマである。一方,樹病の専門分野では,生立木の腐朽は丸太の価値を著しく低下させることから,腐朽菌の同定や被害の防除など多くの仕事がなされている。心材化は,よくできた仕組みである。心材化とは,あなた(使う必要のない細胞,或いは維持できなくなった細胞)には,引退( 細胞の死)してもらいますが,あなたの姿は末永く維持させて頂くことをお約束します。と言うような出来事と言えよう。樹幹内部の年輪状の細胞群は,毎年ある時期(生長期の後半である秋頃)に,微生物などに対して毒性を持った物質を,自らの細胞の中にまき散らし,自らを封印し, 細胞死を迎える(図)。すべての細胞が死んでしまった樹幹内部のこの部分を,心材と称する(図)。図に示したように,辺材の内側は,スギなどでは白い輪(水分が少なくなるため)としてはっきりと見え,白線帯(移行材)と呼ばれ,その部分が翌年には濃色(毒性を持った物質の色と考えて良いだろ