ブックタイトルしろありNo.154

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しろありNo.154

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概要

しろありNo.154

( )しろあり年月生物多様性と熱帯大規模人工林シロアリはその存在量の多さから熱帯の森林を代表する昆虫である。熱帯に生息するシロアリはその食性からつのグループに分類することができる。すなわち, 木材食シロアリ( ), キノコ栽培シロアリ( ),および土壌食シロアリ( )である。前者が森林の生態系における腐食連鎖,すなわち倒木,枯枝,落葉などの植物遺体(リター)を出発点とする食物連鎖に直接関与するのに対して,後者は土壌環境の改変に関わるエコシステムエンジニアとしての大きな役割を有している)。すなわち,これらグループは熱帯の物質循環において異なった役割を有しており,環境の攪乱に対しても異なった反応を示すと推定される。したがって,ある地域に生息するシロアリ相を標準的な方法で調査し,グループ分けすることによって環境の攪乱レベルを比較することが可能になると考えられるのである。例えば,竹松らは,これまでにのベルトトランセクトを用いたシロアリ相の調査をアジア熱帯域で実施してきた。その結果,東南アジア熱帯林において伐採・山火事等による攪乱からの回復度合いと土壌食シロアリの多様性との間に明確な相関が認められている(竹松,私信)。ここで,熱帯アジアにおける木質資源の将来を考えてみると,天然林から人工林への大規模なシフトが進行しつつあると言える。特にマレーシアやインドネシアに代表される東南アジア熱帯多雨林においては,アカシアやユーカリなどの早生樹を用いた数十万ヘクタール規模の植林事業が活発に行われている。化石資源依存型社会から生物(バイオマス)資源依存型社会への移行を指向する上で,環境の保全,つまり“生態系サービス”)の維持と木質資源の持続的な供給をどのように調和させるのか,人類の英知が試されているのである。ここで必要になってくるのが,熱帯における大規模一斉植林と生物多様性に関する空間的・時間的な考察であろう。藤田は,インドネシア・スマトラ島におけるアカシア・マンギウム( )大規模人工林をフィールドとして鳥類相の調査を行い,鳥類の多様性を維持するための植林地デザインについて以下のような提言を行っている)。大面積の状態の良い保全二次林を円に近いまとまった形で維持する。河川沿いの小面積二次林をつなげ,鳥類の移動ルートを確保する。保全二次林や残存林は以上離れていないことが望ましい。上述したように,シロアリ相がその地域の環境攪乱レベルを反映するものであるとすれば,鳥類の場合と同様,あるいはそれ以上に熱帯人工林の適切なデザインを構築する上でシロアリ相の調査が有用であると考えられるのである。植林木と昆虫類・菌類との相互作用熱帯における植林木がシロアリによる被害を受けやすいことも良く知られている。例えば,アカシア・マンギウムの耐シロアリ性は低く,立木および木材の状態でシロアリによって激しい被害を受ける。マレーシア理科大学の教授によれば,ペナン市マレーシア理科大学キャンパス内の植栽木のうち%がシロアリによる被害を受けており( ,私信), 植林地においても最大% というによる被害率が報告されている)。また,シロアリ被害は心材腐朽と共存していることも多く,立木も木材も穿孔性昆虫による被害が多い。種の多様性評価による持続的維持・管理の提言とともに,木材としての持続的利用を図るためには,耐シロアリ性・耐虫性の改善は不可欠の課題報文熱帯人工林におけるシロアリおよび木材腐朽菌類の多様性調査吉村剛