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しろありNo.155

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しろありNo.155

( 25 )6. 構造安全性向上のための建築工法の変化に伴う蟻害・腐朽の危険性の増大 建築物の耐震性能の向上による減災は国の重要政策課題の一つになっている。いわゆる新耐震(1981年)以降の木造住宅については当面の耐震補強の対象外になっているが,新耐震では偏心率のチェックが曖昧にされているため,震度6強以上の地震に対する安全性に課題が残っている。しかしながら,2000(平成12)年の建築基準法の改正では平面の4分割法による耐力要素配置のバランスのチェックが行われるようになったこと,接合部補強金物の仕様の明確化が行われ,また,耐力壁基準強度が1.5倍に引き上げられたことから,構造安全性については十分なものになってきている。これらの構造強度は金物と釘によって担保されるため,土台周辺や柱脚部で蟻害,腐朽を生じると耐震性能に影響が及ぶことになる。そのため、耐震診断法においては一般診断では保有耐力の0.7倍,精密診断法では最大0.2まで個々の耐力を低減することになっており,耐震性能を維持するために防蟻・防腐がますます重要になってきている。 一方,住生活基本法や長期優良住宅普及促進法では,住宅に係るエネルギーの使用の合理化の促進,快適性エネルギー使用の効率性について,より一層の省エネルギー性能の向上が求められている。省エネルギー性能は省エネ法に基づき,熱損失係数等の断熱性能基準が地域区分別に定められている。省エネ法の数次にわたる改正によって,南東北地方から九州地方までがほぼ同等の断熱性能が求められるようになり,そのため,シロアリの活動が活発な比較的温暖な地域においても,基礎断熱工法が採用される傾向が強まっている。 断熱性能を強化するには,結局のところ,壁体や屋根面や開口部の断熱性能の強化だけでなく,床面や基礎の断熱性能の向上が必要になる。この場合,高断熱性能と高気密性は一体ものであるから,断熱材の外張り工法などでは床下空間も室内空間と一体のものと見なされるため,床下におけるシロアリ防除薬剤の使用が困難な状況が生まれてきている。 さらに,耐震性能の向上のために水平剛性の強化,剛床の採用が増加している。床組みが従来の転ばし根太から構造用合板が床下地,場合によっては床仕上げも兼ねるようになってきている。そのため,当初より床下点検口が設置されていない場合,床下点検の障害となる。さらに,基礎構造についても布基礎より強度が期待できるベタ基礎で,立ち上がり部に換気孔のないねこ土台などの全周換気方法が急速に増加してきている。維持管理のための仕組みを定めた長期優良住宅等では人通口が設置されるが,一般住宅では床下点検の障害となることが予想される。7. ま と め 白対協仕様書の理念は土壌と木部での防蟻対策によって耐久性能を維持することになっている。しかしながら,現状では床下空間の欠如,ベタ基礎など基礎内側における土壌での薬剤層の維持について困難な状況に置かれている。また,壁内部での断熱材や防湿気密層の存在が,耐久性の維持のための障害になってきている。構造安全性と耐久性は車の両輪であり,これら,高耐震,高断熱・高気密住宅に対する有効な防除施工方法の確立が急務である。 なお,掲載した新潟県中越地震(写真5~8)および新潟県中越沖地震(写真9,10)の被害写真については,大阪市立大学副学長宮野道雄先生から提供戴いたものである。ここに記して感謝申し上げます。引用文献1)宮野道雄ら(1995):1995年兵庫県南部地震による人的被害に関する検討,第14回日本自然災害学会学術講演会梗概集,24-25.2)土井 正ら(1995):阪神・淡路大震災における木造家屋被害と構造部材の生物劣化に関する研究,大阪市立大学生活科学部紀要,43,145-153.3)境 有紀ら(2005):強振動と建物被害,平成16年新潟県中越地震被害調査報告会梗概集,29.(大阪市立大学大学院生活科学研究科)