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しろありNo.156

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概要

しろありNo.156

?報 文?日本のシロアリの様々な防衛方法北  條     優 ( 19 )しろあり No. 156, pp.19―27. 2011年7月1. はじめに アリやミツバチ,シロアリなどの社会性昆虫は,進化の過程で巣内の労働を分担する様々な?カースト? を生み出してきた。特にシロアリの巣内には,防衛を専門に行う兵隊カーストが存在することが,他の社会性昆虫には見られない特徴の一つである。シロアリの兵隊の頭部や大顎は防衛に適した形態を示し,多種多様な防衛方法が見られる。例えば,強大に発達した大顎を用いて果敢にかみつくといった直接攻撃で敵に大きなダメージを与えたり,シロアリ特有の?額腺? という外分泌器官で合成したジテルペンなどの粘着物質を放出して,敵に触れることなく撃退するというものもいる1)。このような防衛に特化した兵隊の形態は属ごとに大きく異なっており,種を特定する重要な形質の一つでもある。 主に熱帯域において繁栄してきたシロアリ類であるが,日本には4科12属22種の生息が確認されている2)。そのほとんどの4科11属19種が,南西諸島に広がる亜熱帯の森林地帯に生息しており3 ~ 5),この地域が日本においてシロアリの多様性に富んだ地域であることがわかる。当研究室では,南西諸島に生息する様々な系統のシロアリを主に用い,兵隊の額腺や大顎の発生における分子メカニズムの解析,ジテルペンなどの防衛物質の生合成に関与する遺伝子の分子進化の解析などから,シロアリの防衛行動の多様性進化,延いてはシロアリの社会性進化の究極要因の解明を目指して研究している。本稿では,日本に生息するシロアリの兵隊を属ごとに,特に南西諸島に生息する種を例にあげて紹介し,それらの防衛方法を解説する。2. オオシロアリ科の防衛方法 大型で原始的なオオシロアリ科の仲間は主に照葉樹林などに生息しており,日本にはオオシロアリHodotermopsis sjostedti とネバダオオシロアリZootermopsis nevadensis の2属2種が分布している。オオシロアリは屋久島や奄美大島など南西諸島の北部地域にも生息しているが5),ネバダオオシロアリはアメリカからの移入種で,兵庫県などの野外に定着しているものの,これまでに南西諸島からの記録はない。 両属ともに強大に発達した大顎を用いて単純に敵にかみつくという?かみつき型? の物理的防衛を行う(図1)。大顎の形態はZootermopsis 属に比べてHodotermopsis 属の方が内側にややカーブしており,しかも先端が鋭くなっている(図2)。オオシロアリ兵隊の大顎や口器の形態,大顎開閉の仕組みを詳しく調べた結果から,それらが防衛に特化した構造に発達していることがわかった6)。またネバダオオシロアリの兵隊が人間の100倍ほどの咬合力を持っていることが確かめられた7)。これまでの著者らの観察から,ネバダオオシロアリに比べてオオシロアリの方がより果敢に攻撃行動を行うことが確かめられた。また,兵隊は巣内で常に高い攻撃性を維持していることがオオシロアリを用いた実験で確かめられた8)。図1 オオシロアリの攻撃。強大に発達した大顎を用いて攻撃する。大きな頭部には大顎を動かすための筋肉がたくさん詰まっている8)。