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しろありNo.156

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概要

しろありNo.156

( 25 )図15 タカサゴシロアリの兵隊頭部。走査型電子顕微鏡写真(左)でも大顎は見られない。「nasus」の先端に見える剛毛により,敵の位置を把握していると考えられている21)。パラフィン切片写真(右)では,額腺の貯蔵嚢(R)は頭部に限定されているのがわかる。貯蔵嚢の後方に,分泌物を勢いよく噴出させる筋肉(M)が詰まっている。スケールバーは1㎜。折り曲げ,右の大顎の引っ掛かりが外れた時に,左の大顎が元に戻ろうとして勢い良く敵を弾き飛ばすことができる(図11:中央,右)。Pericapritermes 属よりは左の大顎の曲がり具合が緩いSinocapritermes属の兵隊であるが,著者らの観察により,ほぼ同じようなやり方で弾き飛ばすことがわかった。Pericapritermes 属やSinocapritermes 属と同様に弾き飛ばし型の兵隊であるTermes 属の兵隊の大顎の弾く力は,小さなアリや他のシロアリ類なら一撃必殺の威力を持っているようである20)。これらの属の兵隊は,大顎を用いた物理的防衛のみを行っていると考えられてきたが,最近の著者らの研究により,これらの兵隊にも額腺孔や貯蔵嚢が発達していることがわかってきた(北條ら 未発表)(図13)。額腺分泌物が防衛において何らかの役割を果たしているのかもしれない。 シロアリ科の中でも,最も繁栄し多様化したグループであるのがテングシロアリ亜科である。日本にも唯一Nasutitermes 属のタカサゴシロアリが一部の八重山諸島に生息している5)。テングシロアリ類の兵隊は,頭部前方に?nasus? と呼ばれる突起構造が伸びており,その先端から額腺で合成された防衛物質を敵に向けて噴射するという?噴射型? の化学的防衛を行う(図14)。テングシロアリ亜科の中でもNasutitermes 属は最も派生的な属の一つで,物理的防衛の武器である大顎は完全に退化しており,額腺の貯蔵嚢は分泌物を勢いよく噴射させるために頭部に限定されている(図15)。nasus の先端には敵の位置を把握するのに重要な役割を果たしていると考えられている4本の剛毛が生えている21)。またNasutitermes 属の額腺分泌物には,揮発性の高いモノテルペンや粘性の高いジテルペンが含まれている12 ~ 16)。モノテルペンは敵に嫌な臭い物質として働くだけでなくジテルペンの溶媒としての役割を果たしており,ジテルペンが噴射孔を塞いでしまうのを防いでいる12)。これは防衛方法が究極に進化したシステムと言えるだろう。これらの兵隊が合成するジテルペン類は大環状型の複雑な構造をもっており,ほとんどの動物はこのような化合物を合成することができない。最も派生的なシロアリ類のみにおいて,防衛方法の多様化に伴って特殊な二次代謝経路を進化させてきたことが考えられる。著者らはタカサゴ図14 タカサゴシロアリの攻撃。タカサゴシロアリなどNasutitermes 属の兵隊は完全に大顎が退化しており,発達したnasus の先端からジテルペンなどの粘着物質を放出して化学的防衛のみを行う。