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しろありNo.159

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しろありNo.159

TERMITE JOURNAL 2013.1 No.159 45市民講座講演Public Lecture1.はじめに 沖縄県は亜熱帯海洋性気候のもと多くの島々から成り, 他県には見られない生物資源が豊富である。キツツキの仲間で国の特別天然記念物のノグチゲラや飛べない鳥のヤンバルクイナ, イリオモテヤマネコ, オリイオオコウモリ, ヤンバルテナガコガネ, トゲネズミ,ケナガネズミ, サンゴ等々である。生物分野の学習では, 地域の特色を活かし身近な素材を使った授業展開が求められる。これらを中学校現場で積極的に教材として開発していきたいと考えるが, 筆者が環境教育の教材に選んだのはシロアリである。2.なぜシロアリか シロアリは沖縄ではまさに「地域に身近な素材」である。沖縄県は日本で最もシロアリの種数が多く, またシロアリ被害の多い地域である。家屋や家具類, 書籍等をボロボロに食害された事例も多く, 梅雨時の蒸し暑い夕刻に電灯に集まる羽蟻の姿は誰もが目にする光景である。シロアリ=害虫という意識は中学生にも強烈で根強いものがある。しかし, シロアリたちも生きていく上で食物を摂取する必要があり, その食物が人間の住宅や家財道具であるためシロアリと人間の対決が展開される。 一方, シロアリは実に興味深い昆虫である。世界中のシロアリの約95%は熱帯, 亜熱帯地方に広く分布し森林や草原で人間に関係なく生活している。森林ではミミズ同様に腐植土を, また草原では塚を作り, ある種は巣内でキノコ栽培をしながら落葉落枝を分解するのが本来のシロアリの姿なのである。3.教育素材としてのシロアリの有意性1)入手しやすい 前述の通り, 沖縄県ではシロアリは森や林, 学校内の樹木や家屋等いたるところに生息し, 入手しやすい。実際に, 筆者がこれまで勤務した全ての学校でシロアリの生息が確認された。授業で主に使用したヤマ環境教育とシロアリ沖縄県那覇市立安岡中学校 安田 いち子トシロアリは全国各地に広く分布しており, 地域を問わず教材化が可能である。2)採集が容易 立ち枯れの木や落枝に営巣するものが多く, のこぎり等で切り取ることにより採集が比較的容易である。3)飼育が簡単 プラスチック製容器やシャーレ等, 手軽な容器に餌の木片と水分を補給するだけで長く飼育できる。しかし, 少しでも蓋が開いているとアリに襲撃される危険性があるのでその点は注意を要する。4)形態が興味深い シロアリは集団生活を行う社会性昆虫であり, 生殖虫, 職蟻, 兵蟻等の階級がある。アリにも「働きアリ」や「兵隊アリ」がいるが両者の外見はほとんど変わらない。それに対して, シロアリの兵蟻は敵に対する防御という機能に応じて, 形態が職蟻と大きく異なる。さらに種によって兵蟻の頭部や大顎は独特の形態を有する。その形態や敵に対する防御法は生徒の関心を大いに引くことになる。5)不思議な行動 ヤマトシロアリは油性ボールペンで書いた線上をなぞるように歩く。ボールペンファクターと呼ばれるこの行動は集団生活を行う昆虫のコミュニケーション手段としてのフェロモンについて理解するのに適している。6)キノコ栽培 タイワンシロアリは地下に広範囲な巣を形成するが, キノコを栽培する珍しい習性を持つ(図1)。巨大な女王シロアリはまるでイモムシのようであり, その姿も興味深い。 7)生態系にとって重要な生物 シロアリは食物連鎖で重要な位置を占める。シロアリは地球上に大量にある落葉落枝や倒木等の植物遺体を食べてシロアリ自身の体すなわちタンパク質のかたまりを作るが, それはアリやその他の捕食者にとって栄養価の高いご馳走である。一方, シロアリの腸内に