ブックタイトルしろありNo.160

ページ
14/52

このページは しろありNo.160 の電子ブックに掲載されている14ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

しろありNo.160

ブックを読む

Flash版でブックを開く

概要

しろありNo.160

Termi te Journal 2013.7 No.160 11microscope( ㈱ニコン) で原生生物を観察し, DS-5MC CCD camera, DS-U1 controllerおよびACT-2Uprogram(㈱ニコン)を用いて画像を記録・保存した。 3種類の共生原生生物の中で, PgEG siRNAあるいはHmEG siRNAを添加したろ紙を摂食した職蟻の後腸から取出したP. grassiiとH. mirabileの細胞の崩壊が,シロアリの飼育開始数日後に観察された(図2)。P.grassiiの崩壊はシロアリの飼育開始2日後から観察され, 1週間後まで継続した。同様に, H. mirabileの崩壊も3日後に始まり, 1週間後まで続いた。一方, SlEGsiRNAを添加したろ紙で飼育したシロアリでは, この様な原生生物の崩壊は観察されず, S. leidyiは健全な状態で生存していた。コントロール配列のsiRNA (UCS1-3)あるいは超純水を添加したろ紙で飼育したシロアリでは, 3種類の原生生物はすべて健全な状態で生存していた。 HmEG siRNA添加ろ紙を摂食した職蟻の死虫率が約1週間後から急激に上昇し, 3週間後には約70%に達した。PgEG siRNA添加ろ紙で飼育した職蟻の死虫率も, 1週間後から徐々に増加した。しかし, SlEGsiRNA添加ろ紙による飼育ではシロアリの死虫率はほとんど上昇しなかった。また, コントロールsiRNA添加ろ紙で飼育した場合の死虫率は, 超純水を添加したろ紙での死虫率とほぼ同じであった。このように, 共生原生生物のエンドグルカナーゼを標的としたsiRNAは2種類の共生原生生物P. grassiiとH. mirabileに破壊的な影響を及ぼした。これらの原生生物は, 宿主シロアリの腸内に取り込まれたsiRNA添加ろ紙の断片を, エンドサイトーシスにより自らの細胞内に運び込んだものと考えられる。共生原生生物を除去すると宿主シロアリの寿命が短くなること25), また共生原生生物が宿主イエシロアリの生存に重要であること26)が報告されている。共生原生生物を標的としたsiRNAによる宿主シロアリのコントロールが, 新規なシロアリ駆除法となる可能性が見出された。6.植食生昆虫に対するRNA干渉 木材を食害するシロアリには適用できない技術であるが, 生きている植物にhairpin RNA (hpRNA)を発現させ, 害虫を防除する事例も報告されている。この場合, hpRNAは植物内で1本鎖RNAとして合成されたのちに, 自身の相補的な配列によりdsRNAとなるように設計されていて, Dicer(dsRNAやpre-microRNAをsiRNAへ切断するRNaseIIIに属するエンドリボヌクレアーゼ)の作用でsiRNAへと切断される。DicerによるhpRNAの切断は, 植物内で起こる場合と植物を摂食した昆虫の体内で起こる場合があり, 昆虫のDicerで切断された方が標的となる遺伝子の抑制効果が高い21)。例としては, ネキリムシを対象としたトウモロコシでのhpRNAの発現12), アメリカタバコガを対象としたコットンでの発現7), タバコスズメガを対象とした野生タバコでの発現6), トビイロウンカを対象としたイネでの発現16), モモアカアブラムシを対象としたベンサミアナタバコとシロイヌナズナでの発現15)があげられる。7.dsRNAを用いたフィールド試験 最後に, RNA干渉による駆除技術が実用化の一歩手前まで進行しているRemebeeの事例を紹介する(http://www.beeologics.com/products/remebee/)。Remebeeはミツバチに病原性を示すウィルスを駆除するためにRNA干渉技術を応用している。具体的には,蜂群崩壊症候群を引き起こす原因の1つであるイスラエル急性麻痺ウィルス(Israeli Acute Paralysis VirusDisease, IAPV)に対するdsRNAを糖蜜と混合し摂食法でミツバチに投与することで, IAPVからミツバチのコロニーを保護する商品である27)。Remebeeに対して, アメリカ食品医薬品局(Food and DrugAdministration, FDA)による認証プロセスがすでに開始されている。また, フロリダ州, ペンシルベニア州,イスラエルで実施した野外試験により, FDAが米国における広域臨床試験の実施を認可するのに十分な結果が得られており, 米国の主要な養蜂家の参加のもと臨床試験が進行中である。IAPVに加えて, Kashmir beevirus(KBV), black queen cell virus(BQCV),deformed wing virus(DWV) などにも有効なRemebeeProも開発され, 研究室環境下で有効性の評価が開始されている(http://www.beeologics.com/products/remebeepro/)。