ブックタイトルしろありNo.161

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概要

しろありNo.161

Termi te Journal 2014.1 No.161 9以下)である23)。M村の西側には年中水を湛えたリャンベジ湖(Lyambezi lake)があり, 雨季には洪水によって居住地周辺も部分的に冠水する。植生は, モパネウッドランド(Mopane woodland)に分類され22),樹高5m以上の高木モパネが生育する。また, 河畔林やアカシア林が部分的に分布する24)。M村には約1,800人が暮らし, その大半がスビヤ(Subiya)である。主な生業は農耕で, 少数の家畜飼養や漁撈に加え, ピースワークと呼ばれる小規模な賃金労働などが行われている。ナミビア北中部にはオバンボ(Ovambo), 中部にはヘレロ(Herero)の人たちが多く居住している。 ナミビアに生息するシロアリは30属以上に及ぶ25, 26)。その中でも, キノコシロアリ亜科のMacrotermesは地上性の大きな塚を形成することが知られ, 本論ではこのキノコシロアリの塚を対象に調査を実施した。キノコシロアリは地中深くから土を運び出し, 唾液や排泄物によってその土を固めるため, シロアリ塚の土は細粒・等粒で礫が少なく27, 28), 表面は非常に堅い29)。塚周辺の地中には餌取りの際に利用する道が放射状に張り巡らされ, その範囲は半径数十mに及ぶこともある30)。3.調査方法3.1 シロアリ塚利用の調査 地域住民によるシロアリ塚の利用について, O村とM村において参与観察と聞き取りを行った。O村では,牧畜や住居作り, 土食に関して調査した。住居作りの際に使用した土量については, 2006年12月~ 2007年1月にかけてO村で行われた2軒(ゼンバの世帯)の壁の塗り替え作業の際に使用したバケツの容量と土の運搬回数から算出した。M村では, シロアリ塚(植生)の利用に関して, T氏(40代)世帯とその弟のK氏(30代)世帯を中心に聞き取りと参与観察を行った。ナミビア北中部(オバンボランド)や中部のエロンゴ州においても,シロアリ塚利用に関して聞き取りと観察を行った。3.2 シロアリ塚植生の調査 シロアリ塚植生の特徴を明らかにするため, 木本種(樹高1.3m以上)を対象にシロアリ塚と周辺サバンナにおいて植生調査を実施した。まず, 周辺サバンナの植生の特徴を明らかにするため, 北西部と北東部においてサバンナ内にそれぞれ13個のコドラート(20m×20m)を設置し, コドラート内に出現した樹木の出現個体数と樹種を記録した。 シロアリ塚上の植生については, 北西部と北東部で異なる調査方法を取った。ナミビア北西部には, 煙突型のシロアリ塚が分布する(高さ:1.2 ± 1.0 m, 直径:2.9 ± 1.3 m, n = 358( mean ± SD))。これら358個のシロアリ塚を対象に, 塚上に出現した樹木の個体数と樹種を記録した。 北東部には, 上記の煙突型のシロアリ塚から直径が数十mもあるマウンド型のシロアリ塚まで様々な形態のシロアリ塚が分布する(高さ:2.5± 0.9 m, 直径:12.8 ± 8.8 m, n = 70( mean ± SD))。ここでは, 特に植物が多く生育している13個のマウンド型のシロアリ塚(直径が20m以上)を対象に, シロアリ塚上にコドラート(20m×20m)を設置し, コドラート内に出現した樹木の個体数と樹種を記録した。4.  ナミビア北西部, 北東部におけるシロアリ塚の土の利用 ナミビア北西部のO村において, シロアリ塚はオチトゥンドゥ(Otjitundu)と呼ばれ, その土の住居の土壁材への利用や土食がみられた。シロアリは, 牛につく羽虫という意味でさまざまな虫に使われるオンゴンベ・ヤ・カバウバウバ(Omgonbe ya Kavauvauva)という名で呼ばれる。 O村では民族ごとに異なる形態の住居が見られるが,使用する材料はほぼ同じである。住居の骨組みや柱にはモパネの幹が, 屋根にはアシ科の植物またはトタンが利用される。その骨組みの上に塗る土壁として, シロアリ塚の土, ウシのフン, 水を混ぜ合わせて利用する(写真1)。壁は古くなると適宜塗り替えられ, 2006年12月から2007年1月に行われた壁の塗り替え作業では, 一軒当たり約100kgのシロアリ塚の土が利用された。住居周辺に分布するシロアリ塚を崩して土を採取し, 地上部を使い終わった後は, 穴を掘って地中部も利用する。同じ場所で繰り返し土を採取するため, 何度も使われている塚(の跡地)は凹地になっている。人々は新しい塚を好んで利用し, 活動中のものも利用する。シロアリ塚の土を利用する理由としては, “家がきれいにできる”, “石が少ない”などが聞かれた。 O村では, 家畜や子供たちによるシロアリ塚の土の土食もみられる。特に, 10歳前後から20歳前の少女による土食が多くみられ, 女の子は土を食べると体が強くなるという。ここではシロアリ塚の土の他に畑の土も食べられていた。また, シロアリ塚の土に水をかけたものをドラム缶入れて家畜囲いの中に置いており,家畜は放牧から戻るとそれを舐めていた(写真2)。