ブックタイトルしろありNo.161

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概要

しろありNo.161

Termi te Journal 2014.1 No.161 17方には大量の有翅虫が群飛し, 屋内の照明さえもつけられず日常生活が困難になるなど社会問題化した3)。こうした中, 同年には小笠原村によるイエシロアリ対策事業が始まった。1992年6月に農林水産省森林総合研究所の鈴木憲太郎氏が村の対策事業に関連して小笠原でシロアリの予備調査を実施した5)。また, 同時期に日本テレビが父島のイエシロアリの被害状況などを取材し, 放映している。 1992年度から始まった村の調査・駆除事業では, 6回にわって父島と母島におけるシロアリの種類や被害の分布と実態について基礎調査を実施している。1992年11月に出された村の対策事業の初年度調査報告書において, 「母島では10数年以前に実施されたシロアリ調査の中で, 元地地区集落の都営住宅1~2号棟についてイエシロアリの被害があった」という佐藤ら4)の記載内容についても触れている。しかし, 小笠原村による調査では, 母島において加害痕や現存する虫が認められず, 母島にはイエシロアリは生息していないと報告されている6)。 小笠原村によって, 1992年度から1995年度までの4ヵ年度で第1回から第6回までの総合調査が実施され, 父島は被害が甚大であることが判明する一方, 母島ではイエシロアリ自体の確認がなく, 母島にはイエシロアリが侵入していないとされるようになった。3.3 母島へのイエシロアリ再侵入(1997年以降) 1983年の調査時には母島へのイエシロアリの侵入が確認されていたものの, 前述のように1992年から1995年度までの小笠原村が行ったシロアリ対策事業の一連の調査においては, 母島ではイエシロアリが確認されていない。しかし, その2年後の1997年に母島にイエシロアリの侵入が確認され, 今日に至っている。この1997年の侵入時の状況をここでは詳述する。 1997年12月に小笠原村の産業観光課の担当者による母島島内の巡視時に, 長浜トンネル脇に植栽されたヤシの添え木にシロアリの食害を見つけた。このヤシは1991年11月に移植された小笠原固有種のノヤシである。当時は樹形の整った街路樹向きの樹木等を山から移植して街路樹にしたという話を東京都職員から聞くことが出来たが, このセボレーヤシは父島から移植されたものとみられる。 翌年の1998年2月に, このヤシについていたシロアリは「コウシュウイエシロアリ」と同定される。そして翌年の4月1日に「イエシロアリ等の母島への侵入防止に関する条例」が制定される。この条例の目的は, 母島へのイエシロアリの侵入防止にある。しかし, 条例制定直前にイエシロアリの侵入が判明していたこととなる。すぐに防除対策が開始され, その後は長浜トンネル付近の侵入個体群は鎮静化できたとされている。 2006年6月には, 長浜トンネルの北方にあたる東港付近で, イカ釣りに来た島民が電灯に群がるスオームを確認し, イエシロアリの分布域が北部に拡大していたことが判明する。なお, 2005年6月の小笠原村の防除事業の報告書7)では, 「長浜トンネルの北方についてはシロアリの集団を発見したが, 完全に駆逐した」とあり, 母島長浜トンネル付近については, 「白蟻集団の勢力は確実に低減していると思われる」とある。しかし,翌年の報告書8)では, 「庚申塚から北港にかけてほぼ連続的に(羽蟻が)観測された」とある。このようなことから, 当時, 村の防除事業では長浜トンネルより北方については把握しきれていなかったとみられる。 さらに, 2010年6月に長浜トンネル付近において外来樹木対策により立ち枯らしとなっているアカギ枯損木においてイエシロアリが確認される9)。 このように母島北部でのイエシロアリ侵入は, 1991年とみられ(その侵入確認は1998年), 既に侵入から今日まで20年以上が経過している。4.イエシロアリのシノニム問題 ある同一と見なされた生物の分類群に付けられた学名が複数あるとき, それはシノニムであるという。イエシロアリに関しては, 1989年に別種として記載された種が, 2000年になって同種であると見直されたというシノニム問題が存在した。 本研究を開始した2011年の段階においても, 母島に生息するイエシロアリは, 小笠原村では「コウシュウイエシロアリ」とされイエシロアリではないとされていた。こうしたことから, 事の経緯を含め小笠原におけるイエシロアリのシノニム問題について, ここで整理を図りたい。 イエシロアリを含むCoptotermes属は, Light10)以来, 兵蟻頭部の比較で分類が行われてきたが, 巣齢が多くなるにつれて兵蟻の頭部や前胸が大きく, 触角の節数が増加する傾向がある11)。このことがシノニムの生じる原因になったとみられる。 1989年に, 中国で黄復生らによって「中国白蟻分類及生物学」という大著が出版された12)。そして, その中にある分類方式に従って, 日本のイエシロアリは「イエシロアリ」, 「コウシュウイエシロアリ」, 「オオ