ブックタイトルしろありNo.161

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概要

しろありNo.161

18 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 4 . 1 N o . 1 6 1イエシロアリ」の3種に区分されるようになる。前述のように1997年12月に母島長浜トンネル付近でシロアリが確認されたが, このシロアリは, 翌年の1998年2月に九州大学の森本桂氏によってコウシュウイエシロアリであると同定される13)。当時, 上述のようにイエシロアリは3種に分類されていたが, 母島で確認された種は, コウシュウイエシロアリと同定された。 1998年4月1日に, 「イエシロアリ等の母島への侵入防止に関する条例」が制定される。当時, コウシュウイエシロアリはイエシロアリの別種とされていたが, 条例制定の直前に近縁種の侵入が確認されたということになる。 中国産の乳白蟻属(Coptotermes)は, 「中国白蟻分類及生物学(1989)」では32種に区分されていたが, 2000年に中国で出版された「中国動物誌」においては, 32種のうちの6種がイエシロアリと同種と整理され、24種に分類が訂正された。つまり, 日本で確認されているイエシロアリ属は, それまでイエシロアリ, コウシュウイエシロアリ, オオイエシロアリの3種に区分されていたが, すべて同種と分類され直したのである。こうして, 2000年には, コウシュウイエシロアリとイエシロアリは同種と見直されることとなった。 なお, 森本・石井14)によって, 新たにイエシロアリ属のC.vastator(和名フィリピンイエシロアリ)の分布が行政区では小笠原村に属しているが, 母島から東南東約1,300kmと遠い南鳥島で記録されたものである。同種は有翅虫の色彩や小型の兵蟻によりイエシロアリと区別できるという。竹松15)によれば, これを含めて現在, 日本には4科22種のシロアリの生息が確認されている。 母島長浜のシロアリをコウシュウイエシロアリと同定した森本氏は, その後, コウシュウイエシロアリとイエシロアリは同種であるとする報文等を複数出した。2000年に(社)日本しろあり対策協会からシロアリに関する知見を網羅集大成した「シロアリと防除対策」が出版され, ここで森本氏は「従来コウシュウイエシロアリと同定されたものはイエシロアリの若いコロニーと認められる。」と記述している16)。さらに,2001年には(社)日本しろあり対策協会の機関誌「しろあり」においても同様の内容を掲載している17)。 2011年の小笠原村役場による住民を対象としたシロアリ対策事業の説明会の席で, 小笠原村のシロアリ対策事業を受託しているシロアリ防除の専門家から,「実際の現場においてはイエシロアリとコウシュウイエシロアリとは食害傾向が異なり, コウシュウイエシロアリの方が加害程度が弱いので自分たちは区別しているが, 研究者は一緒にしているようである」という説明があった。そして, 一連の小笠原村のシロアリ防除業務委託調査の報告書においては, 母島のイエシロアリはコウシュウイエシロアリと表記され続けてきた。2007年の小笠原村のシロアリ防除業務の報告書 18)には, 「コウシュウイエシロアリは, イエシロアリと同じ種類であると唱える学者も存在するが, 我々対策団ははっきりとした習性の違いを認識しており, イエシロアリとは区別している」といった記述もみられる。 なお, 2012年になって, 小笠原村行政資料において,「コウシュウイエシロアリ」とせず, シロアリもしくはイエシロアリと表記されるようになり, 小笠原においてもイエシロアリのシノニム問題は終焉の方向にあるとみられる。 母島住民においては, 母島に侵入しているシロアリは, 父島のイエシロアリとは別の比較的おとなしい種類であると誤解し, 安心しているきらいがあることから, 母島には既にイエシロアリが侵入・定着していることを今後は共有し, 改めてシロアリに対して十分な対策を図っていくことが重要と考える。5.小笠原母島における現在のイエシロアリの分布 母島におけるイエシロアリの生息実態等の情報は,これまでの小笠原村によるシロアリ対策事業での探索および駆除作業を通じて得られたものが主たる情報である。 小笠原村によるシロアリ対策事業では, 母島北部の長浜トンネル以北の都道沿いを中心とした箇所で駆除作業を実施している。元地集落西側に位置する静沢遊歩道や母島南部の評議平のごみ処理場など母島の他の場所で探索調査が実施されているが, イエシロアリは確認されていない。このため, 母島におけるイエシロアリの分布は, 駆除対策が実施されている北部とされてきた。 このような状況から, 本研究では現地調査により,改めて現在の母島におけるイエシロアリの分布範囲の把握を図った。 通常イエシロアリは地中に営巣し, 蟻道の中を移動する地下生息性である。野外においてイエシロアリの存在を確認するには, 樹皮を剥がすか, 枯損木の食害痕や蟻道を見つけるなどして, イエシロアリそのものか痕跡を発見する必要がある。