ブックタイトルしろありNo.161

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概要

しろありNo.161

Termi te Journal 2014.1 No.161 21南部にも分布域があることが明らかになったことは大きな収穫と考える。 今後の小笠原母島のイエシロアリ防除にあたっては, 科学的な情報に基づき, 技術的に妥当な防除方針を策定し, 正しい情報提供による住民の理解のもとで進めることが必要であると考える。第一に, もはやイエシロアリを母島の自然地から全面的に駆除する事は至難の業であることから, 今後, 母島においては防蟻対策に重点を置いた対策へのシフトが妥当である。建物という財産をイエシロアリの加害から守るには, 家屋の建築時における防蟻処理, そして日常的な被害点検の実施に尽きるのは明白である。そして, 集落を含む南部の分布に関する情報の獲得が非常に重要となってくると考える。なお, 追跡調査として, 2013年の6月に元地及び静沢集落でライトトラップ調査を行ったが, イエシロアリ有翅虫の確認はなかった。今後も継続してモニタリングを行い, イエシロアリの動向を把握するとともに, それによる被害への警戒を不断に続けることが必要である。 冒頭において, アカギなど外来樹木の枯殺処理が,イエシロアリの増殖を助長するかもしれないというジレンマを生じさせていることを記した。イエシロアリは人間の建築財産を脅かし, 外来樹木は小笠原固有の生態系を脅かす。両種は異なる性質の加害を惹き起こし, それぞれの理由で駆除対象となっている。このことから, 両種の防除にあたっての達成目標は異なっている。また, 侵略的な外来種を根絶やしにすることは困難であり, 技術的かつ財政的に実現可能な目標設定をすることが必要である。こうしたことを勘案すると,両種の防除は相反する問題ではなく, 折り合いを見いだすことは十分可能であると考える。 本研究では母島のイエシロアリの防除において必要とされる基礎資料の一部の提供にとどまったが, 母島における今後のイエシロアリ防除の一助になれば幸いである。 なお, 本論述は葉山が放送大学大学院の修士論文としてまとめたものを, 本誌用に再編成した。また, 本研究での分布域の現地調査は, 環境省の小笠原地域自然再生事業アカギ対策調査(平成23年度, 平成24年度)の一部として実施された。引用文献1) Abe,Y.(1937): On the distribution of theoriental termite, Coptotermes Formosanus Shiraki inJapan., Sci Rep.Tohoku Imp.Univ.Ⅳ ser.Biology,Ⅵ(4), pp.453-472.2) Osbrink, W. L. A., A. R. Lax. (2003): Effect ofimidacloprid tree treatments on the occurrence ofFormosan subterranean termites, Coptotermesformosanus Shiraki (Isoptera: Rhinotermitidae), inindependent monitors, J. Econ. Entomol., 96(1), 117-125.3) 小笠原村(2010): 22小笠原建第393号 平成22年7月13日, 小笠原村長森下一男, 外来植物駆除事業に係る樹木へのシロアリの侵入について.4) 佐藤邦裕・吉田一郎(1983): 小笠原におけるシロアリ生息状況調査, 家屋害虫, 17,18, 25-34.5) 鈴木憲太郎(1993): 東京都小笠原村シロアリ調査報告, 平成5年3月.6) 小笠原村(1996): 小笠原村父島・母島イエシロアリ及びダイコクシロアリ総合調査委託報告書(第6回), 平成8年3月,(株)吉野白蟻研究所.7) 小笠原村(2005): シロアリ防除業務委託(その1)報告書, 平成17年6月,(株)吉野白蟻研究所.8) 小笠原村(2006) : シロアリ防除業務委託(その1)報告書, 平成18年6月,(株)吉野白蟻研究所.9) 小笠原村(2010) : シロアリ対策事業指導・監理委託(その1)報告書, 平成22年6月,(株)吉野白蟻研究所.10) Light, S.F.(1927): A new and more exactmethod of expressing important speciescharacters of termites, Calif, Publ, Ent., 4, 75-88.11) 黄復生・平正明・李桂祥・朱世模・何秀松・高道蓉(編)(2000):“ 中国動物誌 昆虫網第17巻 等翅目”, pp.961.12)黄 復生・李桂祥・朱世模(編)(1989)“: 中国白蟻分類及生物学”, pp.605.13) 小笠原村(1998): 小笠原村シロアリ防除業務委託(その3)報告書, 平成10年2月, 合資会社宮崎病害虫防除コンサルタント.14) 森本桂・石井勝洋(2000): 南鳥島のシロアリ調査とフィリピンイエシロアリの定着,しろあり, No.122,9-17.15) 竹松葉子(2006): 日本産シロアリ類の分類の現状,家屋害虫, 28(1), 29-35.16)森 本桂(2000): シロアリ“, シロアリと防除対策”,(社) 日本しろあり対策協会編, pp.1-126.17) 森本桂(2001): 日本と中国のシロアリ,しろあり,