ブックタイトルしろありNo.161

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概要

しろありNo.161

Termi te Journal 2014.1 No.161 52.3 カンボジアの平原の農村 カンボジアでも水田内に多くの樹木の見られるところが多い。ただしアンコールワットで有名なシェムリアップから西ではほとんど木がない平坦な地形が続いている。また首都プノンペンを含むトンレサップ湖より東の地帯ではオウギヤシばかりが目に着くといった地域による違いがある。 トンレサップ湖を取り巻くように平原から山麓の農村20カ所を選び, 聞き取りを行ったところ, 水田内の樹木については極めて多数の種類と用途が見いだされ,産米林農村の性格が強いことが確認できた。その詳細は別稿に譲るが, シロアリ塚は上記のほとんど木のない地帯を除いて存在しており, とりわけ西部バタンボンの周辺には大規模な塚が高密度に存在する景観が見られた。利用の全体を概観すると, 水田の肥料として利用している村が13 ヶ村, 野菜の肥料としているところが4ヶ村, 塚の上を野菜栽培に利用しているところが7ヶ村のように農業的利用が盛んに行われていることがわかった(図11)。さらにキノコ栽培の培地に塚の土を用いる例も存在した。また, 炭焼き窯への転用, コンロや壺の材料としての利用もあり, 極めて多様な利用がなされていることが特徴のようである。そのような利用がない村でも飛来する羽化したシロアリを食べたり, シロアリを塚から掘ってきてニワトリや養魚の餌とすることはほとんどの村で行われており, また半数以上の村ではシロアリタケの採集も行われていた。2.4 焼畑農村におけるシロアリ塚 ここでは産米林農村を離れて, 同じ東南アジアでも陸稲を焼畑で栽培して米を得ている, 焼畑農村におけるシロアリ塚の利用について述べてみたい。 ラオスの首都ビエンチャンからメコン川沿いに360km下ると, カムムアン県の県庁所在地ターケックという町がある。ここから東へカルスト地形の山間を行くとセーバンファイ川の氾濫原に水田を持つ世帯数105の村がある。全世帯が雨季の天水田稲作と半数ほどが乾季に川の水をポンプアップして行う乾季作に従事している。かつては平坦な谷間で焼畑を営んでいたが, 2004年に焼畑の規制が始まって水稲作に転換したという。2012年に訪れた際は川沿いの自然堤防上に数筆の焼畑があり, 陸稲の収穫が間近な状態であった。農家に案内されて向かったその陸稲畑には2m近くの高さを持つ塚もあったが, 驚くべきは注意されて足を止めたその陸稲の間の小さな空間である。よく見ると高さ10cmほどで幅140cmほどの地面に20株ほどのシャロットが植わっている(図12)。これがシロアリ塚であり野菜栽培のためにわざわざ陸稲を作ってないのである。同様, 他の畑の真ん中にも陸稲に隠れた高さ40cm差し渡し115cmの塚にレモングラスとヒメボウキが作られていた。農家によると塚の土は肥沃で無肥料でも野菜の生育が良好で, 特にナスやレモングラスが向くが, 頻繁な管理が必要なキウリやササゲは畑の中の塚栽培には向いていないという。丈の高い塚にはヘチマが作られていて, このような塚の規模形状に応じた利用がこの地域の特徴であった。かつてこのような野菜類は全て焼畑に作られていたものの, 焼畑規制が始まって以来屋敷地の塚を利用した野菜栽培にシフトしているという。 今ひとつは, ラオス北部の事例であるが, 中国との国境にほど近いルアンナムター県の山間にある79世帯420人ほどの村である(2011年当時)。ここでは山の斜面を数年に一度の間隔で焼き払って主作物の陸稲の他, ゴマやハトムギ, クズイモなどが陸稲と混作され,出小屋の周りにはトウガラシをはじめ多種類の野菜が栽培される。斜面にも背の低いシロアリ塚が点在する図11  カンボジアの水田内の樹木とシロアリ塚。ここでは 水田肥料として塚の土を削りながら用いている。図12 陸稲の間の塚に栽培されたシャロット