ブックタイトルしろありNo.161

ページ
9/56

このページは しろありNo.161 の電子ブックに掲載されている9ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

しろありNo.161

6 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 4 . 1 N o . 1 6 1が, この塚自体の農業利用はほぼ無いに等しい。陸稲の相間には伐採樹木の燃え残りの焦げた枝や幹がいくつも横たわっているが, そこにはシロアリのトンネルが張り巡らされていて, シロアリがこれらを食料として塚に持ち帰っていることを伺わせる。確証はないものの焼畑の休閑期間における休閑林の生長や畑地化した跡の陸稲の生長に, シロアリが何らかの貢献をしているのかもしれない。なお斜面でのイネの収量を測定したところ, 大方の予想と異なり頂部の方が裾の部分よりも高い収量を示していた9)。この理由については明確な説明ができていない。3.塚土壌の農業的特徴 三浦ら10)の東北タイの畑での調査によると, 塚を取り去った跡の土壌(作物生育が良好)を塚のない場所(同不良)と比較したところ, 塚の跡地は粘土含量が高く, 固相率が高くて容積重は大きく, 全炭素, 全窒素含量も高く, 交換性カルシウム, 同マグネシウム, 同カリウム含量は著しく高かったという。これはシロアリが土壌下層部から土壌粒子(下層部が粘土質の場合粘土粒子)を上部に運び上げること, 土壌粒子や団粒の膠着材として唾液または糞を用いて塚を造成することによるとしている。 上述の東北タイの天水田農村の塚について, 塚の表層及び内部と周囲の水田土壌について化学分析を行ったところ, やはり三浦らと同様の結果が得られている11)。とりわけカルシウムやマグネシウム含量が高いことは, 多少塩分, 石灰分があって湿り気のあるところを好むというセロリの生育にたいへん好適であると考えられ, このことがセロリ栽培とシロアリ塚土壌の結び図13  焼畑で燃え残った倒木がシロアリに食われている。画面上部 に塚が存在する(ラオス)。つきをもたらしたものといえる。 シロアリ塚を研究した経験のある人なら誰でも知っているように, 塚表層はたいへん堅固で削るためにはたいへんな労力を要するが, その原因も上記粘土含量と膠着剤とによるもので, 炭焼き窯への利用や, 手近に良質な粘土が得られない立地ではかまど, 壺作りの材料に用いるというのもそのような意味で特性を生かした活用方法であるということができる。 なお三浦ら10)も述べるように, 塚跡中心部では全く作物が育たない事例や, タバコやキャッサバが生育不良となる例, 逆にタバコが良く育った例, ワタが生育良好を示した例などが知られていて12), 作物栽培における塚跡地や塚土壌の効果については今後の研究がさらに必要な分野である。4.塚の生長と持続的利用の可能性 シロアリは年間ヘクタールあたり1t内外の土壌物質を下層から上部に運び上げるとされている(三浦ら1990)。けれども地上部の塚がどのくらいのスピードで体積を増すのかについて測った事例はないようである。私たちは上述のラオスの天水田稲作の村で53の塚について写真測量によって継続的に体積変化を追跡した13)。対象の塚は測定技術上ほぼ1?のものにせざるを得なかったが, 年間で平均0.1?の減少という結果を得た。この結果を村全域に当てはめて良いとしたら,村の中の塚は減る一方ということになり, 10年後には塚を消耗し尽くすことになる。ただし冒頭に述べたように, 森の中には多数の塚があって, これは土の利用の対象になっていないから, これも資源と考えたときその増加量はどうなるだろうか?そこで上記体積変化の中から, 増加事例だけを取り出して平均値を求めると年間0.02?の増加という結果となった。もしも森の中の塚が水田域の5倍あるならば, 村全体の塚の利用消費と塚の生長とはバランスが取れるだろう。なお望ましいことには, この村の領域は遙か東に広がっており, 我々が測定した集落周辺の塚利用よりもそちらの塚は利用機会が低いと考えられるので, 資源としてはもう少し余裕があると考えて良いかもしれない。ただしこれも実証的な調査が必要である。 この調査は写真測量に基づいていて, 増加分の重量などを測定していない。また数ヶ月おきの測定なので,具体的にシロアリがどんな活動でどのように塚を大きくしていくのかについての理解が足りない。そこで現在, 塚の一部を人為的に削り取った後, シロアリがど