ブックタイトルしろありNo.162

ページ
30/62

このページは しろありNo.162 の電子ブックに掲載されている30ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

しろありNo.162

Termi te Journal 2014.7 No.162 27子を受け取り, それを電子受容体に伝達する機能を有する電子伝達ドメインである。このドメインはその三次元構造が解明されており, CDHにユニークな構造を有することが明らかとなっている。そこで, 本ドメインに類似した電子伝達サイトクロムを見いだすべく糸状菌の全ゲノムデータベースを検索したところ, 白色腐朽菌P. chrysosporiumのゲノム上に同様のドメインを有する新規タンパク質遺伝子が見いだされた13)。本遺伝子がコードするタンパク質は菌体外タンパク質であると予想され, さらにサイトクロムドメインのC末端にファミリー1に属する糖質結合モジュール(CBM1)を保持していた。本モジュールは, かつてセルロース結合ドメインと呼ばれていたものであることから,セルロース分解への関与が予想された。本タンパク質を酵母菌Pichia pastorisを宿主として組換え体として生産し, 機能解析を行った結果, アミノ酸配列から予想されたとおり, セルロースに強く吸着することが明らかとなった。また, UV/visスペクトル解析, ラマンスペクトル解析, サイクリックボルタンメトリーなどの解析により, サイトクロムドメインはCDHのものと極めて類似した性質を有することが明らかとなった。このことは, 本タンパク質がセルロース表面に存在し,何らかの電子伝達経路の一端を担っている可能性を示唆している。また, 我々のグループでは, 同様の手法で担子菌Coprinopsis cinereaのゲノム上にCDHヘムドメインと類似したドメインを有する新規糖質脱水素酵素遺伝子も見いだしている(論文投稿中)。この酵素はCDHと同様に糖質への触媒ドメインを有するがその基質特異性は大きく異なっており, セロビオースは酸化できないものの, 幅広い単糖類を酸化する能力を有していた。さらに, C末端にセルロース結合ドメインを保持しており, それを介してセルロースに吸着することが確認された。現在のところ, 本酵素がセルロース分解系においてどのような役割を果たしているかは不明であるが, セルロース表面で種々の単糖類を酸化することで細胞壁分解に寄与しているものと思われる。6. おわりに 本稿の冒頭で述べたように, 糸状菌のセルロース分解系は一連の加水分解反応で進行するという考えが広く受け入れられてきたが, 実は酸化還元反応も重要な役割を担っていることが明らかとなりつつある。それに伴い, セルロース分解に関与することが予想される新規酸化還元酵素やタンパク質が見いだされてきている。近年の大規模シークエンス解析の流れのもと, 糸状菌の全ゲノム情報が次々と公開されていることを鑑みると, 今後もセルロース分解に関わる新しい酵素の発見は続いていくであろう。そしてそれらの発見は,糸状菌のセルロース分解系における新たな反応経路を見つけ出す手がかりになっていくに違いない。 長い年月をかけて真菌類が進化させてきた植物分解メカニズムの全体像は, 単に加水分解反応のみで成り立つのではなく, 我々が考えている以上に複雑で高度に制御されたメカニズムの上に成り立っていることが明らかとなってきた。著者らの研究がその全体像解明の一助となれることを信じ, 研究に邁進したい所存である。引用文献1)Eriksson, K.-E., B. Pettersson, U. Westermark(1974) : Oxidation: an important enzyme reaction infungal degradation of cellulose, FEBS Lett., 49, 282-285.2)Kremer, S.M., P.M. Wood (1992) : Evidence thatc e l l o b i o s e o x i d a s e f r o m P h a n e r o c h a e t echrysosporium is primarily an Fe(III) reductase.Kinetic comparison with neutrophil NADPHoxidase and yeast flavocytochrome b2, Eur. J.Biochem., 205, 133-138.3)Samejima, M., K.-E. Eriksson (1992) : Acomparison of the catalytic properties ofcellobiose:quinone oxidoreductase and cellobioseoxidase from Phanerochaete chrysosporium, Eur. J.Biochem., 207, 103-107.4)Renganathan, V., S.N. Usha, F. Lindenburg (1990) :C e l l o b i o s e - o x i d i z i n g e n z y m e s f r o m t h el i g n o c e l l u l o s e - d e g r a d i n g b a s i d i o m y c e t ePhanerochaete chrysosporium: Interaction withmicrocrystalline cellulose, Appl. Microbiol.Biotechnol., 32, 609-613.5)Henriksson, G., G. Pettersson, G. Johansson, A.Ruiz, E. Uzcategui (1991) : Cellobiose oxidase fromPhanerochaete chrysosporium can be cleaved bypapain into two domains, Eur. J. Biochem., 196, 101-106.6)Igarashi, K., M. Samejima, Y. Saburi, N. Habu, K.-