ブックタイトルしろありNo.162

概要

しろありNo.162

Termi te Journal 2014.7 No.162 37海外文献Overseas Literatureイエシロアリにおけるコロニー年齢に依存したカースト分化経路翻訳：京都大学　藤本　いずみ要約　シロアリのコロニーでの兵蟻とニンフの分化経路は種により様々であるが, 適切に説明された研究は少ない。本研究では, イエシロアリ（Coptotermesformosaum Shiraki）の兵蟻とニンフの分化経路について,過去の報告を新たな観点から再検証した。カースト発生経路に基づいて, コロニーを創成期（incipient）, 未熟期（immature）, 若齢期（juvenile）,成熟期（mature）, 老齢期（senescent）の５段階のステージに分類した。創成期コロニーは, 最初の兵蟻（小型）が２齢幼虫から出現するものとした。小型兵蟻の産出は, コロニーが最初の集団から職蟻を生産することに注力する為に, コスト効率が高いと考える。未熟期コロニーにおいては, 兵蟻は１齢と２齢職蟻からの分化へとシフトする。若齢期コロニーでは, 基本的には２齢職蟻から分化する。成熟期コロニー（５年以上経過）においては, 基本的には２齢職蟻, 時には３齢職蟻から分化し, ニンフは主に２齢幼虫から分化する。最終的には, 老齢期コロニーでは,若齢虫はいなくなり老齢虫が蓄積する。これまでの報告はコロニー内の集団力学を見落としていた可能性があり, カースト発生経路はコロニー年齢により左右されると考えた。緒言　シロアリのコロニーのような昆虫社会は, 生き残ってコロニーのライフサイクルを完了させる為に, 巣内の恒常的な状態を保つ。平衡状態の保持は, Emerson１）が昆虫社会を超個体として考えたところの全ての個体の集団作業の結果であり, コロニーの存続は自己統制能力により可能になる２）, ３）。この自己統制能力のひとつの側面は,必要に応じてカースト構成を修正する能力である４）, ５）。兵蟻のコロニー内での比率は,通常は一定しており, 種によって決まっている６）, ７）, ８） が,ニンフは季節により強い影響を受ける９）。シロアリについての様々なカースト発生経路が述べられてきたが,情報は断片的である10）。いくつかの高等シロアリについては広範囲にわたる研究がなされており11）,カースト分化経路は初齢幼虫で決定され逆行できず,最終カーストはもはや脱皮しない12） とされた。しかしながら, 下等シロアリにおいては, 職蟻カーストは殆どの場合最終的ではなく13）, 時に中間カーストが存在することもあり10）, 分化経路の柔軟性が定義を困難にしている。Noirot13）は, 下等シロアリでは兵蟻階級は特別な幼虫から出現するのでなく, また兵蟻の分化は遺伝的な要素のみに支配されているのでなく, カースト分化は柔軟性のあるシステムで, 卵の栄養状態や産み分けで決定するものでないとしている。それゆえ, コロニー内の個体のカースト決定機構は, 社会的状況や個々の遺伝子に対する環境の刺激の結果による14）, 15）。他の下等シロアリの属, Zootermopsis16）,Kalotermes ４）, Reticulitermes17）, Schedorhinotermes18）及びProrhinotermes19） に関する研究では, 別の分化経路へ移動する個体がしばしば観察されることから,推定されている分化経路には変異があるとしている。この適応性は, 様々な種に関する記載のいくつかは,完全でなく正確ではない可能性があることを意味している10）,20）　Coptotermes属（Rhinotermitidaeミゾガシラシロアリ科）は都市害虫及び森林害虫として防除の為に広範囲にわたる研究がなされてきた21）。しかしながら, カースト発生経路に関する記述は断片的なままである。Coptotermes属のコロニー発生に関する記述はOshima22） がイエシロアリについて記載したのが最初であり, １齢幼虫の存在と, ２齢幼虫には３つの可能性；職蟻幼虫, 兵蟻幼虫, 有性幼虫（＝ニンフ）があるとした。当時のシロアリに関する用語及び生態学は貧弱であり, Coptotermes属の生態学の記述は何十年も不正確なままであった。Shimizu23） は, イエシロアリの採餌場所での個体の年齢は,触角の節数で判明しうるとし, 成熟コロニーと衰退コロニーでのメンバーの年齢構成が変化するとした。Roy-Noel24） は, C.intermedius Silvestriの成熟コロニーの若齢虫についColony age-dependent pathway in caste development of Coptotermes formosanus ShirakiT. Chouvenc, N.-Y. SuInsectes Sociaux, (2014) 61, 171?182