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概要

しろありNo.163

Termi te Journal 2015.1 No.163 7報 文Reports 伝統建築(主に指定文化財建造物)の保存修理工事に携わる中で, 調査の段階における建物の外見上では蟻害等を見付けにくいことが少なからずある。表面上には現れていない部材内部(仕口・継手等を含む)の腐朽が進んでいる場合が多い。これらの補修方法としては, 表皮部分が相当残って健在の場合は内部を刳り貫いて埋木及び矧木等の処置を施し, 腐朽状態が顕著な場合は部材の取り替えとなる。 ここまでに至る原因としては様々に考えられるが, 建造物の立地条件(地盤構造, 周囲からの伏流水の有無,山の窪地等)による通風・日当たり不良など単純には理解できないものがある。また, 建物を構成している用材の樹種, 乾燥度合など複雑な要素が絡む。特に床下部分においては, 通風・換気不良が最大の要因となる。 また, 人為的なことが原因となって腐朽を惹き起こすこともある。それは良かれと思って施工したことが裏目に出ることである。たとえば, 地覆(土台)の据え付けの場合, 柱間に差し石が並べられて差し石の凹凸によって生じる隙間を微妙に風が通っていたものを, コンクリート等を流して土台下面を密着させたために, コンクリートが水を吸い上げて土台下端が蟻害による被害および腐朽し, これらが更に柱・梁などの上部構造体までも影響をおよぼしてしまうことがある(写真1)(写真2)。さらに, 応急的な修理の際に, 床束などの用材を樹皮が付着したままに使用したために, かえってシロアリを呼んでしまったと思われるケースも見受けられる。 そして今一つは木材の品質である。一概には言えないものの, 建物を解体する中でそれぞれの部材調査をしてみて分けることであるが, 建築後200 ~ 300年を経過した建物の場合, 特に柱材においては実生の天然木と思われるものが多々見受けられる。経年による風蝕等は見られるものの, 比重が大きくかつ樹芯から皮辺に到る年輪間隔が約1㎜内外と均一に詰まっており,顕著な蟻害の見られないものが多いと感じられる。これは殆んど目の詰んだ赤身の芯材が使用されているためであると思われる。伝統技術の継承と蟻害・腐朽特定非営利活動法人静岡県伝統建築技術協会 久保山 幸治 これに対して, 後年に補修等を施されたものは工期また経費等の関係もあり, 用材木口の年輪幅も比較的広く, 辺材を多く含んだものまでも使用されており,これらには特にシロアリによる被害が見られる。 過去に解体作業をした茶室では, 柱脚を支える大引等は相当シロアリによる被害が見られたが, 床柱(皮付アカマツ, 径約75㎜)には被害が見受けられない。この床柱の柱脚木口を見ると年輪間隔が1㎜ほどであ写真1 埋まった柱石、差し石写真2 元に戻した柱石、差し石