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概要

しろありNo.163

10 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 5 . 1 N o . 1 6 3 厚板で囲われた室内環境は温度と湿度の安定性に優れ, とくに湿度は外部環境が大きく変化するにもかかわらず, 年間を通じて40 ?60%程度に安定することが近年の研究で明らかになってきた。これが板倉の優れた収蔵機能の特性といえる。 木材は神社や政府の管理する倉, 正倉はヒノキを使うが, 一般庶民の倉はクリやアカマツ, カラマツ, スギ等の地域に豊富にある木材が使われる。いずれも100年以上の耐久性を持って, 今日にも生き延びている。 この板倉の木材劣化環境について考えてみると, 倉本体を覆う大きな屋根, 茅葺きまたは板葺きで, 近代には瓦葺きに変わるが, この屋根によって雨を除け,日射(紫外線)を遮ることが基本である。それに加えて, 床を高くして床下の通気を図ることが挙げられる。基礎には丸石が据えられ, その上に土台が載せられる。土台の石の上に接している部分はわずかで, 湿気が滞ることがない。さらに土台にはクリが使われることが多く, クリ材の持つ優れた耐久性が倉の土台を支えているといえる。また土台が腐朽や蟻害で劣化した場合は, 倉全体を持ち上げて土台のみを交換することも稀なことではない。以上のように板倉には大きな屋根, 高床と床下通気, 土台の部材の選択と交換の仕組み, この3つが揃って初めて, 木材だけでできた倉に100年を超す耐久性が獲得できているといえる。2.板倉構法の概要 板倉構法は以上のような古代の板倉を現代住宅として蘇らせる試みといえる。その背景と目的は以下の通りである。(1)森林の保全と国産材(スギ)の活用(2)大工技能を生かし, 技を継承する(3) 資源が循環し, 耐久性に優れたストックとなる木造をつくる(4) 木材のもつ優れた断熱性, 調湿性, 防火性を生かした, 室内環境汚染のない木の家をつくる 古代の板倉を現代の建築基準に適合させるために,耐震構造と防火構造について改良を施して, 性能試験を行い, 国土交通大臣認定を取得した。柱を立ててその間に本実板を落とし込む構法を基本として, 耐震と防火の性能を上げるために, 柱間に落とし込んだ横板に対して, 竪方向にもう一枚板を重ねて張ることとした。落とし込み板の厚さは30㎜で, 竪板の厚さは24㎜である。板同士は釘打ち留めとなっている。材料としては国産のスギの活用を目的としているが, スギと同等以上の木材, すなわち今建築材料として流通している木材は, 外材も含めてすべてこの構法に使うことができる。この2枚の厚板パネルを柱に溝をついてはめ込むことで, 壁倍率として2.2倍, 30分の防火構造が達成できた。市街地の準防火地域の延焼の恐れのある部分の壁に, 不燃材等の外装を施さずとも, 木材のみで壁を構成することが可能となったのである。またその外側に雨仕舞いや断熱のために板や断熱材等の可燃物を張ることも防火性能を妨げない。(図1) 板倉構法は, この壁構造が基本であるが, 床と屋根にも厚板を用いることで, 耐震, 防火, 温熱環境の性能を高める方法を用いることが一般的である。木材だけでそれらについて優れた性能を持つことが確認されている。とくに湿度については年間を通じて40 ?70%に安定しており, 木材の持つ優れた調湿効果が確認された。断熱性については, 寒冷地においては板張りのみでは不足するので, 外装との間に断熱材を施して対応することが可能である。1)- 3) 屋根構法は, もやの上に30㎜の本実板を張り, その上にたるきを配置して, さらにその上に30㎜の厚板を張ることで, たるきの厚さだけの空気層を確保して,夏の遮熱と冬の断熱に対応している。 床構法は大引に直接30㎜の本実板を張り, その下に断熱材を入れることが基本であるが, 仕上としてその上に堅木のフローリングを張ることや畳を敷くことは自由である。 以上のように板倉構法は30㎜の本実板で床, 壁, 屋根を構成することが特徴で, それが室内環境を良好に保つことに大きな役割を果たしている。その板を大量に用いることで, スギの需要拡大にもつながっている。この杉板は厚さ30㎜で, 幅は壁に135㎜ , 床と屋根には180㎜を用いる。その生産体制の整備と品質の安定がこの板倉構法の普及の鍵であった。その生産の拠点として, 徳島県の那賀川流域の製材組合が取り組み,自然乾燥を基本とした生産体制が整備されて, 含水率15%以下の板の大量安定生産が可能となって, 板倉構法普及の基盤となっている。(図2)(図3)3.板倉構法の耐久性 板倉構法は日本のスギの循環的利用を図ることを目的としている。この構法に用いるスギの平均樹齢は50年である。それを用いる建築の耐久性は少なくとも50年, スギの木材としての歩留まりを考慮すれ