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概要

しろありNo.164

12 Termite Journal 2015.7 No.164報 文Reports1.はじめに 公益社団法人日本しろあり対策協会(以下, 白対協)は, 住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく中古住宅の特定現況調査に対応するものとして, 平成14年に「蟻害・腐朽検査員制度」を創設した。この蟻害・腐朽検査員資格は, しろあり防除施工士資格取得後3年を経過している者が所定の蟻害・腐朽検査講習会を受講し, 試験により蟻害・腐朽の検査診断業務を行うに必要な知識を習得していると認定されたものに付与されている。 建物管理者が建物の蟻害・腐朽について疑問や不安を感じた際に, 専門的, 中立的立場から蟻害・診断に関する知見と技術を提供することが蟻害・腐朽検査員の役割である。建築物の適正な維持管理や補修は, 各部位の適切な劣化診断があってはじめて可能になる。劣化診断において, コンクリートや木部のひび割れ・欠損・傾斜などは客観的な基準が用意されているため, 直接観察することで比較的容易に診断することができる。しかし, 蟻害や腐朽による生物劣化については非破壊手法による客観的な基準が未だに確立されていない。また, これらの劣化部位は日射や通気の少ない場所, つまり建物外部からは簡単には目視観察できない場所において発生しやすい。したがって, 建物の蟻害・腐朽検査はそれらの生物劣化現象の詳細を熟知した上で, 建物内のいたるところに的確な判断のもと, 容易にアクセスする技術を持った者でないと判断が難しいとえる。 白対協では蟻害・腐朽検査技術及び検査員の存在を広く一般の人々に広報する目的で「文化財建造物等の蟻害・腐朽調査事業」を公益事業として実施し, 全国各地で文化財等の蟻害・腐朽検査を無償で行っている。シロアリの食害や腐朽等の劣化を受けやすい, 比較的管理の手薄な地方文化財建造物(以下, 文化財)の劣化の現状を明らかにすることで, 住宅の生物劣化への関心を高めることに狙いがあるといえる。 本研究は, 平成23年度から3年分の文化財建造物等蟻害・腐朽調査事業調査報告書(以下, 報告書)を分析することで, 文化財建造物等における耐久性に関する課題について言及する。なお, 四国地区において実施されている検査事業は, 今後30年間の発生確率が70%以上と想定されている南海トラフの巨大地震による災害の発生が懸念されていることから, 一般的な文化財建造物ではなく, 高知県下の災害時避難所を調査対象としている。したがって, 耐久性に関する課題については別途検討するものとする。2. 方法2.1 蟻害・腐朽検査について 文化財建築物等の蟻害・腐朽検査は以下の5段階で行われている。1)事前検査 建物概要(所在地, 敷地状況, 規模, 構造形式など),補修・改修履歴, 防腐・防蟻歴, 各部の高さ(基礎高さ,床高さなど), 各部構造・仕上げ, 敷地・床下環境, 雨漏り・水濡れ箇所とその状況, 各部不具合箇所とその状況(羽アリの発生状況, 基礎・外壁のひび割れなど)について目視, 聞き取り調査を行い, その後の本格的な検査の重点対象箇所の目安とする。2)建物全体の変形検査 壁の波打ち, 壁のねじれ, ふくれ, 開口部の変形, 床の振動・床鳴りなどについて, 目視を中心に行う。3)1次蟻害・腐朽検査診断 「事前検査」「建物全体の変形検査」の結果を踏まえ,以下の部位について目視により蟻害・腐朽検査を行う。・建物外周囲・建物外壁等・「室内」壁・床・建具・家具・「小屋組・天井」梁・桁・母屋・垂木・「床下」床下木部等・「床下」床下基礎・束石4)1次蟻害・腐朽検査の診断対象と方法  診断対象:蟻害(ヤマトシロアリ・イエシロアリ・アメリカカンザイシロアリ), 腐朽, カビ, 変色の兆文化財建造物等における耐久性に関する課題-(公社)日本しろあり対策協会 蟻害・腐朽検査報告書の分析から-大阪市立大学大学院生活科学研究科 土井 正, ナイス株式会社 岡田 みどり