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概要

しろありNo.164

22 Termite Journal 2015.7 No.164報 文Reports1. はじめに シロアリの予防・駆除には主に化学薬品が使用されているが, 近年, シックハウス症候群に代表される住宅内部の化学物質汚染が社会問題となっており, 例えば, 建築基準法の改訂により, シロアリの駆除薬の一つであったクロルピリホスの使用が, アメリカ合衆国に追従する形で2003年に日本でも全面的に禁止された。このため, 現在, 薬剤処理に頼らないシロアリ防除システムの構築が課題となっている1)。 一方, バイオ・アコースティクス分野において, アリやミツバチ等の真社会性昆虫は, 振動・音響信号を用い情報収集・交換を行うことが実験的検証によって明らかになっているものの, シロアリを対象とした研究は相対的に少ない2)とされる。その一例として, 外部の刺激に対し, 木等の基質に頭部を打ち付ける(tapping, タッピング)行動により発生する音の周波数分析3)や, ハイスピードビデオカメラを用いた行動自体の周波数, 変位量, 加速度等の計測が行われている4)。また, シロアリ(職蟻)がその口で木材を摂食する際に発生する弾性波の監視により, 木材の被害を早期にかつ非破壊的に検出するアコースティックエミッション(AE)モニタリングに関する研究も以前より行われている3, 5?8)。なお, AEの研究では, 被害部位の特定を目的としているため, 減衰の大きい超音波領域を使用している。 他方, 近年, Evansらは乾材シロアリを対象に, 木材に付加した振動・音響信号と摂食活性との関係について研究成果を発表している2, 9)。これは, 上記AEに関する研究とは異なり, 可聴域の振動・音響振動を対象としている。まず, 木材の寸法と摂食活性に関する選択実験を行い, 乾材シロアリが材の内部から寸法を判別している可能性を示した。続いて, この判別に振動・音響信号を利用していると仮定し, 寸法の異なる数種の木材を摂食する際に発生する振動の測定・分析を行った後,測定された信号や人工的に作成した信号の木材への付加と摂食活性に関する選択実験を行っている。その結果, 測定された振動・音響信号で, 乾材シロアリの摂食活性をコントロールできる可能性を示している。しかし, ダイコクシロアリと同じCryptotermes属である,Cryptotermes secundusとの間でも, 木材の寸法や付加する振動・音響信号の嗜好が異なっている2, 9)。 そこで筆者らは, 乾材シロアリに比べ摂食量が多く,本来中国から日本にかけて分布するがハワイやアメリカ, 南アフリカに侵入している10)とされるイエシロアリ(Coptotermes formosanus, 図1)を対象に, 摂食行動と木材の振動・音響信号の関係について研究を実施した。まず, Evansらと同様, 木材の寸法と摂食活性に関する選択実験を行い, イエシロアリが木材の内部からその寸法を評価可能であるか検証した。続いて,寸法の異なる4種の材それぞれをイエシロアリに摂食させた際に発生する振動を測定し, 材の寸法と周波数特性との関係を示すとともに, Evansらが行ったダイコクシロアリの結果2)とも比較した。これらの結果をふまえ, 最後に, 材へ付加する信号の有無およびその種類・量の変化に対する摂食活性の変化について検討を行った。図1 イエシロアリ(Coptotermes formosanus)の職蟻と兵蟻イエシロアリの摂食行動と振動・音響信号の関係について大分大学 工学部 福祉環境工学科建築コース 富来 礼次, 大鶴 徹有明高専 建築学科 岡本 則子