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概要

しろありNo.164

Termite Journal 2015.7 No.164 43研究トピックスResearch Topicsチビタケナガシンクイの食害生態の非破壊評価?幼虫の成長過程と摂食量のX線CTによる評価?京都大学大学院農学研究科 渡辺 祐基1. はじめに チビタケナガシンクイは, 鞘翅(コウチュウ)目ナガシンクイムシ科に属する昆虫で, 竹材の害虫の代表種として知られている。本種は, 幼虫・成虫ともに気乾状態の竹材を食害して粉末状の虫粉を生成する(図1)。竹材は, 我が国では伝統的木造建築における土壁の下地材(木舞竹組)などとして使用されており,木舞竹組に食害が発生すると土壁の耐力低下を引き起こす。そのため, 効果的な防除法の確立が求められているが, これに必要とされる本種の食害生態はほとんど明らかにされていない。さらに, 本種の幼虫は常に竹材中で活動するため, その生態を観察することは非常に困難である。近年, X線コンピュータ断層撮影(X線CT)を木材中のシロアリ食害部の抽出1, 2)やシバンムシの検出3)に適応した研究が報告されている。特に後者では, シバンムシの幼虫の像がCT画像にて捉えられた。そこで筆者ら4)は, X線CT装置により食害材を撮像することで, 本種の幼虫の成長過程を追跡し,その摂食量を評価した。本記事では, この研究成果について紹介する。2. 実験方法 マダケ(Phyllostachys bambusoides)材とチビタケナガシンクイの成虫をプラスチック容器内に封入し,食害材を作製した。この食害材を分割し, 撮像用試料(繊維方向長さ100mm, 幅約11mm)3個に調整した。試料は繊維方向が鉛直方向となるように保管し, 約3日ごとにマイクロフォーカスX線CT装置(SMX-160CT-SV3S, 島津製作所)によって撮像を行うことで, 試料内部に生息する幼虫を追跡した。その際の分解能は61.9μm/pixel, 縦方向の撮像視野は28.7mmであった。3. 結果と考察 CT画像において試料内部の状態が明瞭に可視化された。虫体の像は周囲の竹材, 穿孔および虫粉より分離され, 幼虫, 蛹, 成虫といった成長段階を区別することも可能であった。また, 異なる日に撮像されたCT画像を比較することで, 同一個体が移動し, 成長する過程が断続的ながらも観察された。一個体の成長・移動過程を捉えたCT画像のうち, 代表的なものを図2aに示す。なおCT画像では, 白い(明るい)部分ほど高密度であることを表す。この個体は試料の内皮(紙面左)付近にて, 常に繊維に沿って下向きに移動した。追跡開始からしばらくは, 幼虫の穿孔は虫粉が密に詰まっていたため不明瞭であったが, 13日目以降は空洞の穿孔部分が明瞭に確認できた。この個体は25日目までに蛹化し, 31日目までに羽化していたことが確認された。なお, 他の個体も原則として繊維方向に移動した。 次に, 幼虫の摂食量を算出するために, CT画像より幼虫の穿孔の長さと体積の変化量を測定した。穿孔体積の変化量は, まず穿孔の断面積を楕円形と仮定し,長軸と短軸の長さより求めた穿孔断面積に穿孔長さの変化量を乗じることで算出した。図2aと同一個体の幼虫について, 追跡開始から蛹化するまでの穿孔距離,断面積, および体積の時間変化を図2bに示す。穿孔距図1  チビタケナガシンクイの幼虫(左上)、成虫(右上)および食害材(下)