ブックタイトルしろありNo.157

ページ
16/50

このページは しろありNo.157 の電子ブックに掲載されている16ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

しろありNo.157

( 13 )つ(野外コロニーA,B)採集した。未交尾の幼形生殖虫から単為生殖卵を得るために,まず野外コロニーAからメスのワーカーとニンフを取り出して,それらがergatoid,nymphoid に分化するまで飼育した。そして,3個体のergatoid またはnymphoid を取り出して野外コロニーBのメスワーカー200個体とともに飼育し(産卵コロニー),単為生殖による卵を産ませた。仔虫飼育コロニーは,野外コロニーBから取り出したワーカーとワーカー・ニンフから分化したergatoid・nymphoid を用いて作成した。産卵コロニーで得られた単為生殖による卵を,ほぼ同じ数ずつ6通りの仔虫飼育コロニーに移してそれらが3齢になるまで飼育した。3齢個体のニンフは翅芽を有しワーカーは無翅であるため,3齢個体のカーストは翅芽の有無により決定した。 産卵コロニーと仔虫飼育コロニーについて,3つの繰り返しを作成した。すべての実験用人工コロニーはプラスチックケースにシロアリと餌である木粉(おもにクヌギを使用)をいれて作成し,25℃で飼育した。3. 結   果 産卵コロニーから仔虫飼育コロニーに移した卵の数,その卵から3齢まで成長した個体の数を表1に示す。Colony W,♂Eで育った仔虫はすべてニンフに分化したが,colony ♀E,♀N,♂N,♀N♂Nではワーカーに分化した個体も見られた(図3)。単為生殖卵を供給した幼形生殖虫の型(ergatoid/nymphoid)は,仔虫のカーストの割合に有意な影響を与えなかった(ロジスティック回帰,p=0.32)。図3 ワーカーに分化した仔虫の割合(mean+SEM)。黒・白棒はergatoid・nymphoid を含む産卵コロニーに由来する個体を示す。仔虫飼育コロニー卵数3齢個体数W 31,32,44 16,16,2257,39,42 25,18,22♀E 30,32,44 18,22,2757,38,42 34,18,23♂E 30,32,44 18,18,1856,38,42 30,16,23♀N 31,33,45 14,19,2257,39,43 40,25,24♂N 31,33,45 16,15,1857,39,42 24,19,18♀N♂N 31,32,45 19,19,2957,39,42 33,23,23表1 仔虫飼育コロニーに移植した卵の数と,その卵から3齢まで生長した仔虫の数。上段・下段はそれぞれnymphoid・ergatoid を含む産卵コロニーに由来する仔虫の数を示す。それぞれの行には3つの繰り返し実験の仔虫の数を示す。またロジスティック回帰分析の結果,Colony Wと比べて,colony ♀E,♂N,♀N♂Nは有意にワーカーに分化した個体の割合が高く(それぞれp=0.021,0.009,0.007),colony ♀Nはその割合が高い傾向にあったが(p=0.051),一方で,colony ♂E は有意な差を示さなかった(p=0.985)。4. 考   察 これまで知られているように雌雄一対のnymphoid2) に加えて, 本研究の結果からメスergatoid とメス・オスのnymphoid もワーカー分化を誘導することが明らかになった。また一方でオスergatoid は仔虫のワーカー/ ニンフ分化に影響を与えないこともわかった。では,一体どのようにワーカー分化が誘導されたのだろうか。その可能性の一つとして,幼形生殖虫から分泌された難揮発性の物質が栄養交換やグルーミングを介して仔虫に伝わったことが考えられる。とくに肛門食はシロアリではカースト分化制御において重要であることが知られており3),ヤマトシロアリでは幼形生殖虫が頻繁に肛門からの分泌物を他個体に与えることが観察されている4)。本研究においても,メスergatoid とメス・オスのnymphoid は頻繁に他個体との栄養交換