ブックタイトルしろありNo.158

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概要

しろありNo.158

( 7 )いるので,建築物内部に限定されていると思われるが,窓枠のように判然としない部分での被害も含まれる)が,種同定に誤りがある可能性があるとしつつも約60種あるとし,その被害部位や頻度が報告されている4)。そのうち,頻度が10以上のものについて抜粋すると表3のようになる。これらを腐朽型で分けると褐色腐朽:白色腐朽=14:3となり,この場合も圧倒的に褐色腐朽が多い。こうした傾向はデンマーク,ノルウエー,英国など他の欧州諸国でも報告されており,建築に使われている木材が主に針葉樹材であるので,その影響ではないかと考えられている4)。また,高橋3)が文献調査に基づいて表4を作成している。これから,褐色腐朽菌は針葉樹材好み,白色腐朽菌は広葉樹好みという傾向がうかがえる。これからも,建築物では針葉樹材を多用しているので,実際の腐朽害が主に褐色腐朽菌による例が多いことは説明できるかもしれない。 しかしながら,本研究では,採取菌のほとんどが白色腐朽菌であった。原因として,採取操作や分離操作によるバイアスがかかったことが考えられる。最近,桃原ら5)は,滅菌水を滴下したスギ円盤にエアサンプラーで1000 L の空気を吹き付けた後,26℃で16週間培養し,そこから釣菌して寒天培地上で継代培養することで木材腐朽菌を単離し,そのITS 領域の遺伝子配列を解析した。得られた遺伝子配列をBLAST 検索によりGenBank の遺伝子配列データと比較することで,単離した菌を同定した。その結果,Bjorkandera sp., Ceriporia sp., Phanerochaete sp.,Polyporales sp., Polyporus arcularius, Sistotreme sp.,Irpex sp., Trametes hirsute, T. versicolor の分類群に分けることができたとしており,これらはいずれも白色腐朽菌であることを報告した。以前にも,自然界では白色腐朽菌が90% 程度と圧倒的に多い6)ことが文献調査で指摘されている。以上のことが,今回の実験でも反映されていると考えるのが妥当であろうと思われるが,実際の被害になぜ褐色腐朽が多いのか現時点では説明がつかない。この点の解明は今後の課題である。引用文献1)M.Nei, W.H.Li(1979):Mathematical model for studyinggenetic variation in terms of restriction endonucleases.Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76, 5269-5273.2)K.Tamura, J.Dudley, M.Nei, S.Kumar(2007): MEGA4:Molecular evolutionary genetics analysis(MEGA)softwareversion 4.0., Mol. Biol. Evol. 24: 1596-1599.3)高橋旨象 “きのこと木材” p78の表を一部改変,1989,築地書館,東京4)O. Schmidt (2007):Indoor wood-decay basidiomycetes:damage, causal fungi, physiology, identification andcharacterization, prevention and control, MycologicalProgress, 6, 261-2795)Momohara, Y. Ota, K. Sotome, T. Nishimura(2012):Assessment of decay risk of airborne wood-decay fungi II:relation between isolated fungi and decay risk,J WoodSci., 58, 250-2556)高橋旨象 “きのこと木材” p49,1989,築地書館,東京1)元筑波大学2)岩手県林業技術センター3)高知工科大学4)京都大学生存圏研究所