ブックタイトルしろありNo.158

ページ
11/50

このページは しろありNo.158 の電子ブックに掲載されている11ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

しろありNo.158

( 8 )しろあり No. 158, PP.8―15. 2012 年7月<報 文>茅葺き屋根の生劣化福  田  清  春1.緒言 日本しろあり対策協会は,公益法人への移行を目指して,公益目的の事業の一つに文化財建造物の蟻害・腐朽調査を掲げている。すでに旧中部支部や旧関東支部では,先行してこの事業の実施を行ってきた1)。ここでは,著者が参加した旧関東支部実施の調査の中で,協会の調査目的にはなかったが,個人的に長年関心を持ってきた茅葺き屋根の生劣化(生物劣化ともいう)に関して,若干の調査を行ったので報告する。なお,旧関東支部では著者が参加した以外にも数多くの調査を行っていることを記しておく。 ところで,文化財建造物とは文化的価値の高い建物を意味するものであるが,個人的に文化とは人々の日々の暮らしの仕方と捉えている。わが国では(おそらく世界共通に)人々の日々の暮らしを支える建物の屋根として,大昔より少し以前まで,茅葺きを含む草葺き屋根が主であった。従って,文化財建造物といえば,その多くが草葺き,特に茅葺き屋根を有している。ここで大昔の竪穴住居の再現例を図1に示しておく。この住居には屋根や壁に多くの茅が使われている。 茅葺き屋根の生劣化に関する研究例は,我が国内外共にそう多くない。著者は伊勢神宮の前回(1993)式年遷宮時に,主に諸社殿茅葺き屋根の生劣化や高耐久化の試みについて研究を行い,いくつかの研究報告を行ってきた2-8)。また,それらをまとめた報告も行っている9)。ここでは,今回新たに行った文化財建造物の茅葺き屋根の生劣化調査について報告するとともに,過去の研究結果についてもふれる。2.調査方法他 今回の調査対象が文化財であるために,試料採取など厳禁であることから,調査はもっぱら肉眼や双眼鏡による観察で行った。 なお,以前に実施した研究についても言及するが,その際に実施した研究手法については,文献2~9)を参考にされたい。3.結果と考察3.1 調査対象とした文化財等建造物の茅葺き屋根 今回調査した茅葺き屋根について,建物全体の写真を図2に示す。これらの屋根は,比較的日当たりの良い敷地条件下に建てられており,また例えば平林寺の山門が2003年3月に葺き替えられ,小野家住宅が2004年に修理がなされており,旧冨岡家住宅が2006年3月に移築完成する等,吹き替えや修理後の時間経過が短いことから,劣化の程度が深刻な屋根はなかった。それでも劣化の兆しが認められる屋根も存在した。劣化の詳細については,次項以降に以前の研究例と関連させながら述べる。 なお,図2以外に以前に調査した茅葺き屋根については適宜図示する。今回の調査対象建造物の所在などについては表1に示す。また,建造物の正式名称,履歴等の詳細については,それぞれのホームページを参照にされたい10)。図1 古代の竪穴住居(三重県伊勢市)を再現した例