ブックタイトルしろありNo.158

ページ
16/50

このページは しろありNo.158 の電子ブックに掲載されている16ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

しろありNo.158

( 13 ) 次に茎を取り囲む葉鞘部分の生劣化について,以前に行った研究の結果を述べておく。図13に黒色化した劣化部分より取り出した茅の概観と茅組織分解の様子を示す。葉鞘部分では,主に表面に付着した土塊などから菌糸が伸び,菌糸の周囲を分解しながら成長する。このようにして,葉鞘は分解されていく。 日当たりの良い屋根の場合,雨水により発芽した胞子が菌糸となり,この菌糸によって茅が分解されたり,土塊などから菌糸が伸びて茅を分解するが,屋根上での水分の滞留は少ないので,劣化した部分は厚く積もることなく風化にさらされる。風化は,太陽光特に紫外線による屋根表面の酸化的分解作用とともに,屋根表面の劣化した部分が風や塵芥により削り取られる様式で進行し,結果として長年月の間に徐々に厚さを減少させることとなる。なお,太陽光の照射を受けた茅は,表面の光沢を失うとともに灰白色へと脱色される。 一方,旧池上家住宅の北側屋根のように,屋根の上部を樹林帯が覆うなど湿気が滞留し易い場合,菌類により分解された部分では,菌類により白色や赤色,褐色など様々な色を帯び,やがて土壌化した層が堆積することとなる。このような典型例は鬱蒼とした樹林に囲まれて建つ伊勢神宮である。内宮外幣殿を例に,図14に建てられた直後とほぼ20年後の様子を示し,図15に厚く堆積した土壌化層の例を示す。土壌化層には多くの植物が繁茂する。 次に,図3で示したように,軒先で不均一に生ずるV字型の深い黒変部について考察する。軒部分が地表面と平行でない屋根の場合,雨水は屋根の表層部を伝って軒先に達し,軒先で軒の厚さ方向に不均一に深く浸透しながら地表面に落下する。この雨水の浸透の結果,そこで菌類が繁殖し,前述のごとく茅の概観を黒色に変えながら,まず葉鞘や茎の髄部分を腐植・土壌化するように分解し,やがて茎の棹部分をも分解する。その結果,軒部分には所々で主にV字型の黒変部が出現する。この例を図16に示す。 また,南部の曲がり屋に代表されるような構造の場合,雨水が流れ込みやすい曲がり部分で,生劣化が進行し易い。図17に山形県熊野大社について,この例を示す。図13 劣化茅の葉鞘表面の様子上:概観 下:走査型電子顕微鏡写真図12 腐朽茅からの分離セルロース分解菌類2例上:Trichoderma sp. 下:Chaetomium sp.