ブックタイトルしろありNo.159

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概要

しろありNo.159

12研究トピックスResearch Topics1.はじめに 今日, 多種多様なキノコが培養され我々庶民の食卓を豊かに彩っている。それらのほとんどが腐生の菌である。マツタケなどの菌根菌は生きた植物との関係が切り離せないため, いまだ人工培養下で子実体の発生を見ない。このことから, 天然物のみがわずかの期間だけ市場に出され,庶民には高根の花となっている。本研究で紹介するオオシロアリタケは, 腐生の菌であるが, その生態が独特であり, そのために人工培養に成功していないキノコである。 オオシロアリタケ(Termitomyces eurrhizus (Berk.) R.Heim)は担子菌, ハラタケ目(Agaricales), シメジ科(Lyophyllaceae), オオシロアリタケ属(Termitomyces)に属する。この属のキノコは高等シロアリのキノコシロアリ亜科(Macrotermitinae)のシロアリと共生関係にあり, シロアリの巣内の菌園(fungus garden)にある菌床(fungus comb)から子実体を発生させる。市女笠状で先端の鋭くとがった傘を持ち,軸は堅い1)。オオシロアリタケ属のキノコの多くが食用に適しており2), オオシロアリタケも歯ごたえがよく美味しいキノコとして知られる。 本種はアフリカから東南アジアの熱帯および亜熱帯域に広く分布している。日本国内では沖縄県の八重山諸島に分布し, タイワンシロアリ(Odontotermesformosanus)と共生している3)。また, 沖縄本島の一部にも分布が確認されており4), これが分布の東限である。 本研究では, オオシロアリタケの人工栽培を最終目的とし, まずその生理的特性を明らかにするため, その栄養特性と腐朽特性について調査した。2.研究の方法2.1 供試菌株 沖縄県内にて採集された27菌株およびNBRC(NITE Biological Resource Center) 4菌株より, 菌糸の成長速度が比較的速く, 培地特異性の低い5菌株, T-オオシロアリタケの菌株間による栄養要求および木材腐朽特性の違い京都大学生存圏研究所 小野 和子3, T-11, T-25, T-26, NBRC 33275を選抜し試験に使用した。なお, NBRCの菌株はいずれもTermitomyces 属であるが, 種は同定されていない。2.2 干草煎汁培地におけるK2HPO4添加の有効性 2種類の干草煎汁寒天培地(HA培地)を用いた。一方は, 蒸留水1 lに干草を50 g加え, 121 ℃ , 30分オートクレーブで処理した。濾過後,濾液を1000 mlに補正し,リン酸水素二カリウム(K2HPO4) 0.2 %(W/V) および寒天1.5 %(W/V)を加えた通常の組成(HA-a)である5)。もう一方は, 上記組成にK2HPO4を添加しなかったもの(HA-b)である。なお, 本試験における干草はチモシーグラス(ハイペット, 大阪)を用いた。 通常組成のHA平板培地上にて前培養した各菌株を,直径7 mmのコルクボーラーを用いて切片を切出し,試験培地中央に植菌した。26 ℃の暗室にて培養し, 植菌後10日目から40日目まで5日ごとにコロニーの直径を測定した。2.3 異なる炭素源による成長の差 本試験では,マツタケ培地(グルコース2.0 %(W/V),EBIOSR0.5 %(W/V), 寒天2 %(W/V))を用いた。グルコースに加え, キシロース, スクロース,マルトースをそれぞれ炭素源として用いた。 通常のマツタケ培地上で前培養を行い, 2.2と同様に植菌, 培養, 観察を行った。2.4 木材強制腐朽試験 使用した試験体は, ヒノキ, スギ, アカマツ, ブナのそれぞれ心材と辺材である。試験体の大きさは,木口面1 cm×1 cm, 繊維方向0.5 cmである。試験前に60℃で48時間乾燥させ質量を測定した。 腐朽試験用の培地6)(グルコース4.0 %(W/V),ペプトン0.3 %(W/V), 麦芽エキス1.5 %(W/V))100 mlを450 mlのマヨネーズ瓶に入れ, 寒天2 %(W/V)を加えて滅菌した。放冷し, 培地が固化した後,麦芽エキス寒天培地上にて前培養を行った各菌株を接種し, 26 ℃の暗室にて培養した。コロニーが試験体の十分乗る大きさまで成長した時点で, 1瓶につき6