ブックタイトルしろありNo.159

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概要

しろありNo.159

48を顕微鏡で観察しスケッチを行う。中学生にとって微生物の観察は容易ではない。なにしろ初めて見る上に半透明で, 動き回るので全体の形を把握するのが難しい。そこで顕微鏡テレビ投影装置を使用し, テレビ画面に映して説明すると効果的である。「自然界における役割がすごい」はシロアリ学習のクライマックスである。自然の森林や草原で繰り広げられる生物同士のつながりにおいてシロアリの生態学的な位置を理解させたいところなのでここは教師の勝負どころである。 自然界で生き物は「食う-食われる」という食物連鎖で結びついている。生きた植物を出発点とするものを生食連鎖, 枯死植物から始まるものを腐食連鎖といい, シロアリは後者に大きく関わっている。 シロアリが植物遺体の分解という自然界におけるゴミ問題を合理的に, 有効再資源化して解決している生物であるということをここで熱く語るのである。 シロアリの授業の最後に, 「もし地球上からシロアリがいなくなったらどうなるだろう」と生徒に問いかける。そもそも害虫とは何だろうかと。そして自分がシロアリになったと仮定してシロアリの立場から人間へ一言, 言いたいことを発表させて授業は終了する。 授業後, 生徒のシロアリに対するマイナスイメージは大分やわらぎ, かなり好意的になっていた。 以下は授業後の生徒の感想である。○シロアリは私たち人間の目から見ると家を食う天敵だが, 彼らには彼らなりの役割があるのだ。人間が自然に逆らっているだけで, シロアリはそのままの自然のままに生きているだけだと気づいた。○私はシロアリは嫌いだったけど, この授業を通じて少しシロアリを見直しました。やっぱり害虫というイメージが強かったけど, 自然界でとても大切な役割を果たしていることがわかった。○もしかしたら, 他にも私が嫌っている生物で, 人間より役立っている生物がいるのかもしれない。そう思ったら少しはシロアリが好きになりました。5.シロアリで環境教育を この発展学習を通じて, 生徒はシロアリの害虫としての側面だけでなくいろいろな姿を知り, シロアリに対する新たな認識を得た。不思議に満ちたシロアリの生態を学習した後, 「ヤスデは実はどんな生き物だろう, ハエはどうだろう?それらは自然界でどのような立場でどのような役割を果たしているのだろうか?」というような疑問を抱き, 他の生物への興味が喚起されたら, それはこの授業の大きな成果である。 シロアリの授業を通して生徒に伝えたいことは,「シロアリは害虫の代表のように言われるが, 実は様々に工夫を凝らした生活様式を持つ興味深い昆虫であり, 地球環境問題の一端に正面から立ち向かう分解者的役割を果たしている生物である。」,「 授業では, シロアリを通して生物同士のつながりを学んだが, 他の生物もそれぞれ独特の生態を有し, 自然界で生きていくためにごく自然な営みを行っている。」ということである。 環境教育は, 人間も他の動・植物と同様に地球に生きる200万種の生物の内の1種であり, 自分さえ良ければ(人間さえ良ければ)の考えはNG。相手の立場に立って考えよう(常に人間目線ではなく, 時にはシロアリ目線で世界を見てみよう)ということを生徒に考えさせるところから始まると考える。 人間から見るとシロアリは家屋を破壊する害虫だが, シロアリにとって家の梁や柱は枯死植物であり,その植物遺体を分解しているに過ぎないのである。6.おわりに 地球環境の保全を考える第一歩は身近な生物に興味を持って観察することから始まる。環境教育の教材として適した生物は他にもいろいろあると思うが, その中でもシロアリは生徒の興味を充分に満たし, 生物同士のつながりや地球環境全体を考える足がかりとして筆者一押しの生物である。沖縄は「シロアリっておもしろい!」が実感できる地域であり, 筆者は今後もシロアリの授業を続けていきたいと考えている。