ブックタイトルしろありNo.160

ページ
35/52

このページは しろありNo.160 の電子ブックに掲載されている35ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

しろありNo.160

32 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 3 . 7 N o . 1 6 0解 説Commentary京都議定書第二約束期間における木材の扱いについて(独)森林総合研究所 構造利用研究領域 恒次 祐子1.はじめに 2013年より京都議定書の第二約束期間が始まった。第一約束期間に引き続き森林吸収に期待が寄せられるとともに,第二約束期間からは木材中に貯蔵されている炭素に由来する吸収・排出量も報告の対象となり,木材利用による温暖化防止効果が国際的なルールに基づいて評価されることとなった。 筆者は昨年より第二約束期間の報告ルールに基づいて具体的に木材利用による炭素の吸収・排出量を計算するためのガイダンスを作る仕事に参加している。報告ルールは気候変動枠組条約・京都議定書締約国会議(COP/CMP)という場で決められ決議文(Decision)にまとめられているが,これは法律文のようなもので実際にどのようなデータを使ってどのように報告値を計算すればよいかということは書かれていない。ルールを具現化する仕事は科学者の集団である「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」と呼ばれる組織がCOP/CMPの依頼を受けて担当しており,筆者はこのIPCCのワーキンググループの一員として活動している。 本稿ではまず木材のどのような機能が報告の対象となるかについて簡単にまとめる。次に第一約束期間における木材の取り扱いについて触れ,第一約束期間当時に行った我が国の木材利用によりどのぐらいの吸収量が見込めるかという研究成果についても紹介する。続いてCOP/CMPで決定された第二約束期間の木材の取り扱いに関するルールのポイントを決議文の抄訳とともに紹介し,最後に吸収量確保のための方策について考察したい。2. 木材利用による温暖化防止効果とこれまでの取り扱い2.1 3種類の温暖化防止効果 木材には「炭素貯蔵効果」「省エネルギー効果」「化石燃料代替効果」という3種類の温暖化防止効果があると考えられている。まず「炭素貯蔵効果」は,樹木が吸収した二酸化炭素を木材が炭素の形で貯蔵していることを指したものである。この炭素は木材が使用されている限り(燃やしたり腐ったりしない限り)は大気に戻されることはない。木造住宅や机,紙といった形で炭素を地上に留めておくことができ,例えば去年より木造住宅が1戸純増した場合,その1戸分の住宅に貯蔵されている炭素の量だけ大気中から削減したとみなすことができる。 「省エネルギー効果」は一般的に木材を加工する際に要するエネルギーが他材料に比較して少ないことから,加工過程におけるエネルギー使用に由来する排出量が少ないという効果を指す。例えば建築物を建てるために必要な資材に起因する二酸化炭素排出量を同じ平米数で比較すると,木造は鉄筋コンクリート造などの他の構法よりも少ないとの報告がある1)。「木材で作ることができるものは木材で作る」ことが他材料で同じものを作るよりも排出削減につながる。最後に「化石燃料代替効果」は木材がいわゆる「カーボンニュートラル」であることに起因する効果である。大切に使った木材を最後に廃棄する際にはエネルギー源として使うことで化石燃料の使用量を削減することができ,その分排出削減となる。2.2 炭素貯蔵効果のこれまでの取り扱い 前述の3種類の温暖化防止効果のうち,第二約束期間に新たに「伐採木材製品」として報告の対象とされたのは「炭素貯蔵効果」である。省エネルギー効果と化石燃料代替効果はそれぞれ化石燃料使用量の削減という形で,すでに貢献は(木材利用の効果であると明確に目に見える形ではないものの)評価されていたといえる。一方炭素貯蔵効果については,第一約束期間中は炭素収支の計算枠の中では考慮しないということになっていた。森林が伐採された時点で伐採量分を排出と計上する,いわゆる即時排出という扱いである。その理由のひとつは輸入(輸出)された木材中に貯蔵されている炭素を誰のものにするかという議論に決着がつかなかったことであると聞いている。各国は削減