ブックタイトルしろありNo.160

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概要

しろありNo.160

36 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 3 . 7 N o . 1 6 0き換えること,計算方法自体を自国の事情に合ったより精緻なものとすることが許されている。 これらに加えて森林減少につながるような伐採に由来する木材製品や,エネルギー利用に回る木材,埋立地に埋めた木材製品に貯蔵されている炭素は伐採時または埋立時に排出がなされたものとすること,つまりプラスの効果を計上しないことが定められている。3.2 IPCCにおける対応 このような決定を受けてIPCCでは既存の「グッドプラクティスガイダンス(日本語では良好手法指針と言われる)」の一部を改訂しており,伐採木材製品中の炭素量を計算する方法も新たに追加されることとなっている。例えば決議文では「伐採木材製品=製材,木質パネル,紙」との定義がなされたが,ではどういうものが「製材」の範疇に入るのかということから,国産材の割合をどのように計算すればよいのか,国独自法の例としてどのようなものがあるかなど,各国が報告をするための手引きとなる内容が盛り込まれる予定である。この改訂作業に伴い昨年から今年にかけて4回の会議が行われ,筆者も伐採木材製品の章の執筆グループに参加しているところである(図5)。改訂されたグッドプラクティスガイダンスがIPCCの総会で採択されると,いよいよそれに従って各国の報告が始まる予定である。4.おわりに ダーバンで合意された木材製品の計上手法は,本稿2.2で述べた「生産法」に近いものであるので,我が国が第二約束期間中(2013年?2020年)に報告する値は,木材利用の状況が現状のまま続くとすると図3上のシナリオ1・生産法に近い値になると予測される。つまり吸収はほとんど見込むことができない可能性も考えられる。吸収量は毎年の投入量と廃棄量の差で決まるので,短期的には国産材で建築物や家具などの木材製品をたくさん作る(投入量を増やす)こと,また現在使用中である国産材で作られた製品を捨てない(廃棄量を減らす)ことが吸収量増加につながることになる。投入量を増やすには木材の用途拡大も方策のひとつであろう。例えば土木分野への利用などが今後期待されているところである。 一方で,国産材の利用量増加は森林の伐採量増加,つまり国内の森林からの排出量の増加につながることは忘れてはならない点である。日本の場合,伐採量が森林の成長量を超えることは当分はなさそうであるが,どのぐらいの国産材を利用していくことが森林吸収を担保しつつ木材利用による吸収効果を最大限に活用できるかという観点から,森林と木材とを一体のものとして温暖化対策に取り組むべきである。今後新ルールに沿ったシミュレーションなどを進めるなどして,森林と木材の機能が十分に発揮される活用のあり方を探っていきたいと考えている。引用文献1) 漆崎昇・水野稔・下田吉之・酒井寛二(2001):産業連関表を利用した建築業の環境負荷推定,日本建築学会計画系論文集,549,75-82.2) Eggleston H.S., L. Buendia, K. Miwa, T. Ngara, K.Tanabe.( eds)(2006):2006 IPCC Guidelines forNational Greenhouse Gas Inventories, Preparedby the National Greenhouse Gas InventoriesProgramme, IGES, Japan.3)T sunetsugu Y., M. Tonosaki( 2010): Quantitativeestimation of carbon removal effects due to woodutilization up to 2050 in Japan: effects fromcarbon storage and substitution of fossil fuels byharvested wood products, J. Wood Sci., 56, 339-344.4) Conference of the Parties serving as the meetingof the Parties to the Kyoto Protocol: Report ofthe Conference of the Parties serving as themeeting of the Parties to the Kyoto Protocol onits seventh session, held in Durban from 28November to 11 December 2011, http://unfccc.int/resource/docs/2011/cmp7/eng/10a01.pdf図5  伐採木材製品(HWP)執筆者会合の様子(2013年3月7日  平石尹彦氏撮影)