ブックタイトルしろありNo.161

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概要

しろありNo.161

Termi te Journal 2014.1 No.161 15報 文Reports1. はじめに 小笠原諸島は2011年6月に我が国で4番目の世界自然遺産に登録された。小笠原諸島においては, 島の面積に比して固有種が多いことと適応放散の証拠が多いことが世界自然遺産に値すると評価されたためである。小笠原諸島は海洋島としての独自かつ希少な生態系を有している。このような大陸から遠く離れた島嶼生態系は, 面積的に限られた地域での長い隔離の歴史を通じた微妙なバランスの上に成り立っている。そのため, 開発や移入種の影響により容易に破壊され劣化してしまうという脆弱性を有している。実際に小笠原諸島は多数の外来種に侵入され, その陸上生態系は大きな影響を受けている。 小笠原諸島に侵入した外来種の中でもイエシロアリ(Coptotermes formosanus)は, 国際自然保護連合 (IUCN)の「種の保全委員会」が定めた世界の侵略的外来種のワースト100にも入る影響の大きな外来種である。この他にも多くの外来種が小笠原に侵入しているが, 中でも最も侵略的な種が常緑広葉樹のアカギである。 現在, アカギなどの外来樹木に対しては, 環境省や東京都などの行政により駆除事業が行われている。駆除作業は樹幹周囲にドリルで穴を開け, そこに除草剤を注入して枯らす方法が採用されている。この方法では, 外来樹木は立ち枯れし, その後は腐朽し倒伏していく。しかし, 立ち枯れ木が多量に生じることが, 別の侵略的外来種であるイエシロアリに食料資源を提供し, 蔓延させてしまうおそれがあるとされる。 こうしたことから, ともに侵略的外来種であるイエシロアリとアカギの双方に対する駆除事業が相反することなく進められるには, 現状で欠けていた母島でのイエシロアリの分布などの基礎情報の獲得が不可欠と考え, 本研究を実施した。2. 害虫としての「イエシロアリ」 イエシロアリは, 中国南部原産と考えられており,現在はアメリカ合衆国の南部, アフリカ東部, スリランカ, ハワイなど, 世界の熱帯域に分布を広げている。その定着の条件はおおむね1月の平均気温が4℃以上, 最低平均気温が0℃以上とされ, 典型的な暖地性の種である1)。イエシロアリの日本における分布は,本州では関東以西(太平洋側), 四国, 九州, 小笠原諸島,南西諸島などである。イエシロアリは, その営巣箇所から加害箇所までの距離が場合によっては100m以上に及ぶこと, 成熟コロニーの個体数が非常に多く建築物の被害が大規模となり易いこと, 地中営巣性のため巣の発見が難しいこと等の理由から強害性害虫となっている。現在, アメリカにおいてもイエシロアリは最も加害性の大きな害虫であり, その防除や食害による修復にかかる損害額は, 毎年10億ドル以上と推定されている2)。このようにイエシロアリは防除の必要性が高い一方で, 防除が難しい害虫といえる。 小笠原諸島においては, イエシロアリは終戦後アメリカ軍によって持ち込まれたとされ, 現在, 一般市民が居住する父島と母島, そして自衛隊が駐留する硫黄島の3島に侵入している。なかでも, 父島は日本でも有数のイエシロアリの激害地となっている。小笠原諸島は米軍統治下から日本に返還された1968年以降, 復興予算による各種の事業が急ピッチで進められ, 防蟻対策のされていない簡易な木造建築物が多く建てられた。また, 小笠原諸島には, もともと生態系を構成する種数が少なく, イエシロアリにとっての捕食者の存在が希薄であったと考えられる。このような要因が複合したため, 父島は激害地となったと考えられている。 父島ではイエシロアリが既に高密度で生息しており, その根絶はきわめて難しい状況にある。そこで, これまで20年余りイエシロアリの防除対策を続けてきた小笠原村は, 次のような対策方針を掲げている。父島においては, 人とシロアリの住み分けと称して, 居住地一帯で徹底的にイエシロアリ防除を行い, 建築物をイエシロアリの食害から守り, 居住地において不快なスオームを発生させないといった方針である。 一方, 母島では本研究を開始した2011年当初には,小笠原母島におけるイエシロアリの侵入と分布について(一社)小笠原環境計画研究所 葉山 佳代放送大学教養学部 松本 忠夫