ブックタイトルしろありNo.161

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概要

しろありNo.161

4 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 4 . 1 N o . 1 6 1で, 貴重な現金収入源となっている。2.2 東北タイの平原の天水田農村 この村は265世帯人口1100人ほど(2002年当時)の天水田に補助灌漑を併用する稲作を営む村である。ビエンチャン平野の天水田農村とは違い, 所得のほとんどは近くの県庁所在地コンケンの多数の事業所への通勤就労の他, バンコクや海外で職を得た子供からの仕送りなどから得ている。 私が稲作についての調査を始めた1980年代当時は,水田内に巨大な多数のシロアリ塚が存在し, そこにはカキノキ科のDiospyros ebenum(染料用植物)をはじめ多様な樹木が叢生していた。その様相は図3にわずかに面影をとどめている。加えて水田の中や畦にも多種類の樹木があった。一方では水田域を流れる小川に添って多数の菜園が存在し, 家庭の野菜果物需要をまかなうほかに, 主作物のトウガラシ生産の余剰はコンケンの市場で販売されて重要な現金収入源となっていたが, シロアリの塚を削って各種野菜の肥料に用いることも見られた。 2000年代になるとタイの経済成長に伴って通勤就労の機会が増え, また収入額も増加したこともあり, 菜園を営む農家は激減していったが, その一方で野菜生産に特化する農家が現れた。主作目は2000年代初頭はメボウキであり, 2010年代はセロリである。とりわけセロリ栽培にはシロアリ塚の土が最適とされ, 幅1m程度の畝に塚の土が客土されて4月頃播種, 6から12月の長期にわたって収穫がなされる(図9)。セロリは連作はできないので, この後にMultiply onionやレタスが作付けされる。セロリは最近タイ料理の各種付け合わせとして多く用いられるようになり需要が拡大した野菜である。 ここでセロリ栽培とシロアリ塚との関係を整理すると, 農家はこれから栽培をはじめようとするときに, まず, ダンプ業者に必要量を発注する。ダンプ業者はさらにユンボ業者に採掘可能な塚の持ち主の探索を依頼する。需要を満たすような大きな塚はたいてい水田域に存在するので, 塚の持ち主は水田の区画拡大工事をかねて塚の売却を受諾する。この時にセロリ農家のダンプ業者への支払額はダンプ1車(3t, 5?)あたり600から1000バーツ(調達距離により変動, 1バーツは約3円)であり, ダンプ業者のユンボ業者の支払いは同200バーツ, ユンボ業者の塚所有者への支払いはゼロないし20 ~ 30バーツとなる。塚所有者には一見非常に不利な取引のようであるが, 塚の売却無しに単純に水田整備を依頼したときの支払いは時間あたり2500バーツであるから, 塚を売却した方が遙かに安価な水田整備の実現が可能となる。塚の土はダンプで運ばれ,セロリ畑には1rai(1600㎡)あたり8から18車分が投入されていた。すなわち1raiに24から多い場合には54tが投入されていたことになる。セロリの売り上げは1raiあたり8万から13万バーツであるから, 塚土壌の購入費用は充分まかなえるということになる。 この大量の塚土壌はいったい塚何基分に相当するのであろうか?この村の周辺には巨大な塚が多いが, たまたま遭遇した採掘現場での聞き取りでは3日間に3つの塚を掘り, それぞれダンプ20, 70, 77台分あったという。地上の塚にそれほどの体積があったとは思えないが, 実際は地上部と同じ体積分を地下からも掘り採るので, そのような分量になるのである。業者や農家の話では, 肥沃な部分は地上部と同じように地下にもあるので, 必ず掘り下げて採掘する, ことに塚に生い茂る樹木の根が張っていて土の色が黒っぽいところが, 品質として最も良いと評価されているとのことであった。掘削後は地主の意志に応じてそのまま池にするか, 他から土を持ってきて埋め戻し田面として整備するようである(図10)。 図9 シロアリ塚の土をセロリ用地に客土(タイ) 図10 掘りあげた塚の土の山とその跡にできた池(タイ)