ブックタイトルしろありNo.162

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概要

しろありNo.162

32 T e r m i t e J o u r n a l 2 0 1 4 . 7 N o . 1 6 2察した(図3)。その結果, 前兵隊脱皮直後に見られるしわ状構造の展開は, 脱皮後7日目までのクチクラの肥厚に伴って起こることが明らかになった(図3-b)。さらに, 脱皮後14日目にはクチクラ層が薄くなり, しわ状構造は完全に平らになった(図3-b)。以上の結果より, 前兵隊の脱皮後から14日間におよぶ頭部伸長には二段階のステップを踏むことが考察された。一段階目は脱皮直後から脱皮後7日目までに起こる, クチクラの肥厚に伴うしわ状構造の展開。二段階目は脱皮後7日目から14日目までに起こる, クチクラ自体の伸張である。4. さいごに 本研究により, シロアリの兵隊特異的な形態形成には前兵隊への脱皮時だけではなく, 前兵隊ステージでの成長も寄与していることが明らかとなった。さらに,この成長には柔軟で弾力性のある前兵隊クチクラが重要な役割を担っていることが示唆された。クチクラの物理的な性質はクチクラを構成するタンパクの組成に依存することが, 様々な昆虫を用いたクチクラタンパクの研究で示唆されている3)。本種における先行研究では, 前兵隊特異的に発現するクチクラタンパクが発見されており4), 本研究で考察された前兵隊クチクラの柔軟性に関係することが予想される。さらに, 昆虫におけるクチクラタンパクの発現が JH によって制御されていることも多くの先行研究で示唆されているため5), 前兵隊特異的なクチクラタンパクの発現もまたJH によって制御されている可能性が高い。 前兵隊脱皮直後に見られるクチクラのしわ状構造は, 解剖学的には frons と呼ばれる部位に存在する。本種の場合, この部分は頭部伸張を引き起こしているが, タカサゴシロアリにおけるツノ状の器官 (nasus)の形成が起こるのもまた frons である6)。兵隊分化において frons が示す形態変化の柔軟性は, 祖先シロアリで既に獲得していたのかもしれない。 社会性昆虫の中でも, 前兵隊はシロアリだけで見られるユニークな発生ステージであり, その発生や生理,進化的な起源については未だ多くの謎が残されている。今後は前兵隊ステージに着目した研究が蓄積されることで, これらの謎の解明にまた一歩近づくことが期待される。5. 謝辞 本稿執筆の機会を与えてくださった京都大学生存圏研究所の吉村剛先生に心より感謝申し上げます。なお,本研究の遂行は文部科学省科学研究費(課題番号21677001)および日本学術振興会の援助を受けて行われました。6. 引用文献1)Miura T., M.E. Scharf (2011) : Molecular basisunderlying caste differentiation in termites. In :Bignell DE, Roisin Y, Lo N (eds.) Biology ofTermites : a Modern Synthesis., Springer, pp 211-2532)Clarke KU (1957) : On the increase in linear sized u r i n g g r o w t h i n L o c u s t a m i g r a t o r i a L .Proceedings of the Royal Entomological Society ofLondon A 32:35-393)Hackman RH (1984) : Cuticle : biochemistry. In :Bereiter-Hahn J, Matoltsy AG, Richards KS (eds.)Biology of the Integument, vol. I. Springer-Verlag,pp 583-6104)Koshikawa S., R.Cornette, M.Hojo, K.Maekawa,T.Matsumoto, T.Miura (2005) : Screening of genesexpressed in developing mandibles during soldierdifferentiation in the termite Hodotermopsissjostedti. FEBS Letters 579 : 1365-13705)Charls JP (2010) : The regulation of expression ofinsect cuticle protein genes. Insect Biochemistryand Molecular Biology 40 : 205-2136)Miura T., T.Matsumoto (2000) : Soldiermorphogenesis in a nasute termite : discovery of adisk-like structure forming a soldier nasus.Proceedings of the Royal Society London B 267 :1185-1189