ブックタイトルしろありNo.162

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概要

しろありNo.162

Termi te Journal 2014.7 No.162 45はより集中型の巣構造とより限定的なネオテニック生産への分化経路が, コロニーの分断が観察されないことの説明になるかもしれない。従って, イエシロアリの分散は, 群飛あるいは人為的なコロニー全体の移動によるものが主である54), 62)。職蟻カーストとしてのW 4 殆どの下等シロアリは, 高等シロアリと比べ非常に柔軟な分化経路を持つ12), 13)。一般的にRhinotermitidae科, 特にCoptotermes属は, 下等シロアリと高等シロアリの移行期の代表であり20), 63), 64), この属が下等シロアリの特徴, 我々が述べた職蟻カーストが最終カーストであるとした分化経路, を多く備えている。他の多くの下等シロアリと比較し65), 66), Coptotermes属は擬職蟻カースト(Grasse and Noirot, 4) による定義)が無い。成熟期コロニーにおいて, L2が脱皮してN1かW1になると, 有性無性にかかわらずその個体は死ぬまでそのカーストに留まる(例外は新たなニンフ生産35))。W 1からW 3まで, カースト比率を維持する為に職蟻は兵蟻に分化(それぞれS 2, S 3, S 4に分化)する可能性は持っている7)。一旦職蟻がW 4になれば, 死ぬまで職蟻に留まり, 他の分化経路へ移行する可能性がない(W 4→W 5→W 6→W 7のみ)ことを入手したデータは示している。小型兵蟻の役割 創成期コロニーでは, 兵蟻は幼虫ステージ(L 2)から生じ, 小さい形態の兵蟻(S 1)となる。この現象は‘小型’兵蟻とされ13), 16), 下等シロアリと高等シロアリの両方で一般的にみられる11), 67), 68), 69), 70)。Light16)とNoirot12) は, コロニー創成の初期におけるこれらの役割に疑問を抱き, Noirot12) はこの小型兵蟻は成熟期コロニーの兵蟻と比べ短命であるとしている。イエシロアリの小型兵蟻についての我々の観察でも, この小型兵蟻は一般的に軟弱で活性が低かった。最初の数個体の生存がコロニーの中期成長戦略に重大な影響を持つので, コロニー創成期は存続の臨界点である。Kingand Spink 26)及びHiga 28) は, 初生卵から孵化した個体の生存数は, 2回目の産卵から生じる個体の生存に明らかに影響するとしている。最初に生まれた集団は,一次生殖虫によってのみ給餌され世話される。生存個体数(この時点ではW 1とW 2)は, 採餌と次世代の若齢個体及び一次生殖虫の世話を行うグループの能力に直接影響を与える。従って, 出来る限り多数のW 2を必要とするので, この臨界期はコロニー発達のボトルネックである。さらに, 兵蟻は“ただ飯食い”であり,限られた資源の中の重要な蛋白を消費しており, コストがかかる71)。この状況で, 世話係としてより有益な個体である職蟻(W 1かW 2)から兵蟻(S 2かS 3)を分化させることは効率的ではなく, よって非常に短命でもある。従って, L 2→PS 1→S 1の経路は“安価”な兵蟻生産ルートである。結果として小型兵蟻(S 1)の防衛力は低いが, 他の齢から次の兵蟻の生産を防ぐ意味で重要な機能であり4), 16), 72), 73), 次世代の世話係である職蟻(W 1とW 2)への投資効率を改善している。コロニーがこのボトルネックを乗り越え発達し,コロニーが採餌テリトリーを拡大し防御能力が必要となれば, 完全に機能した兵蟻(S 2, S 3, S 4)が漸次生産されるようになる(図3)。図3 イエシロアリ兵蟻S1, S2, S3, S4と分化経路( )内は各齢での代表的な触角節数