ブックタイトルしろありNo.162

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概要

しろありNo.162

Termi te Journal 2014.7 No.162 5 以上が今回の調査所見である。建造物群全体として,古い虫害は確認されたものの, 現在進行中の虫害は確認されなかった。しかし, 複数の箇所で木材の腐朽が確認され, 漆塗のクラックやシバンムシの脱出口など腐朽を誘発する要素も確認されたため, 今後は雨水の入り込みを防ぐ対策や, 薬剤による防腐処理が必要となってくる。 今回, 蟻害・腐朽検査を実施したことで, 久能山東照宮が所有する文化財建造物群全体の現状が明らかになり, 今後の管理方針を決める上でプラスにはたらくことは間違いない。 今後は, 久能山東照宮と協力をし, 建造物群の維持管理計画を考えてゆく。 ところで, 今回の検査に関わった県外の関係者から,「県市が協力し, 無償で検査を行う事業は素晴らしいものであるし, 自分の自治体では協会が動いても県市が動かない」という言葉をいただいた。本市としても,この制度をより多くの文化財所有者に利用していただけるよう協力してゆきたい。3 静岡市における久能山関連の文化財保護事業 静岡市では, 建造物のほかに歴史資料, 美術工芸品等多様な文化財を保存しており, さらには山全体が国の史跡に指定されている久能山の魅力を全世界へアピールするための基盤を整備するため, 久能山総合調査事業を平成23年度から5か年計画で実施している。前述のとおり, 平成27年(2015)は, 徳川家康が薨去して400年にあたる年であり, その年に久能山総合調査の成果をまとめた「久能山誌」と史跡久能山の今後の保存管理方針を定める「史跡久能山保存管理計画」の作成を目指している。 「久能山誌」は, 建造物, 文献史料, 美術工芸品, 史跡,地質, 植生, 民俗学等の専門家からなる調査委員会を結成し, 久能山東照宮の全面的な協力のもと調査委員及び本市職員により現地にて文献史料, 美術工芸品の調書の作成, および聞き取り調査を行い, 調査結果を専門的な見地から分析し, 今後の保存管理, 活用事業の基礎資料として発行するものである。 建造物については, 日光東照宮や紀州東照宮など,同時期に建立された権現造と久能山東照宮との比較研究を進めている。 文献史料については, 久能山東照宮所蔵史料はもとより, 宮内庁書陵部や東京大学史料編纂所, 白帝文庫(愛知県犬山市)など県外に散在する古文書, 絵図などの調査を実施している。 「史跡久能山保存管理計画」は, 久能山の歴史遺産としての価値を正しく理解し, その価値を損なうことなく後世に伝えるため, 測量調査を実施して, 遺構の残存状況及び地質, 植生等の自然環境を確認し, 史料調査, 環境調査の成果も踏まえて策定する。 このほかにも, 総合調査の成果に基づいた学術シンポジウムと駿府城から久能山東照宮を結ぶ久能街道の歴史ウォークを開催する予定である。4 おわりに 久能山は, 年間40万人以上が訪れる市内屈指の観光地であり, 文化財の宝庫である。本市としては, それらを活かして後世に伝えるために最善の努力を尽くしてゆきたいと考えている。 最後に, 蟻害・腐朽検査の主催者である静岡県しろあり対策協会, 所有者であり検査に全面協力をしていただいた久能山東照宮, 静岡県, 静岡鉄道株式会社などすべての関係者に感謝の意を伝えるとともに, 今後の検査事業の発展を願って結びとする(写真13)。写真12 鼓楼における古いシバンムシによる食害写真13 拝殿から本殿・石の間を写す