ブックタイトルagreeable 第24号(平成24年10月号)

ページ
8/22

このページは agreeable 第24号(平成24年10月号) の電子ブックに掲載されている8ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

agreeable 第24号(平成24年10月号)

 前回、細胞壁の構造を鉄筋コンクリートの建物に例えた場合に‘鉄筋’に相当するセルロースについてお話ししました。今回は、‘コンクリート’に相当するリグニンについて説明します。1. 紙をつくる上での  「邪魔モノ」 最近では省資源化が叫ばれリサイクル紙も多く出回るようになってきましたが、こんなご時世であっても「白い紙」の需要は依然として大きいものがあります。「白い紙」を得るためには紙の主体であるセルロースにまとわりついているリグニンを分解・除去する必要があります。段ボール紙を思い浮かべていただくとよいかと思いますが、リグニンの残存量が多い紙製品は茶色っぽい色(褐色)をしています(写真)。 ここで木材から紙をつくる過程(=製紙過程)を紹介します。 紙(:ほぼセルロース100%)を作るためには、木材を細かく砕いてチップにしたあと、蒸気で軟らかくしてから機械的にほぐしたり、薬品といっしょに高温高圧で煮たりして繊維化します。そのあと「洗浄」を行うと、洗浄液の中にリグニンが溶け出します。 それでも繊維に残っているリグニンを分解するために、最後に「漂白」という工程が入ります。漂白には、一昔前は一般家庭でも使われている塩素系漂白剤の成分と同じ次亜塩素酸ナトリウムが主として使われていましたが、現在ではオゾン( O3)による漂白が主流です。その後、抄紙(=紙すき)・乾燥を経て、用途に合った紙に仕上げられ出荷されます。2.リグニンの化学構造 木材から何らかの方法で部分的に分解してしか得られない「リグニン」の構造は非常に複雑で、現在でもなお不明な点が多いです。pーヒドロキシフェニルプロパン構造(図1)を基本単位とし、様々な結合様式により構成された3次元網目構造をとる高分子化合物で、面白いことに針葉樹と広葉樹、そしてイネ科植物で、この基本単位の構造がちょっとずつ違います。 リグニンは木材中に存在しているとき(:天然リグニン)は無色透明と考えられていますが、木材から抽出する過程で酸化などにより変質してしまうため、我々が目にするリグニンは濃い褐色を呈しています。 シロアリは多くの昆虫類と同様に、リグニンを分解して栄養として利用することはできません。リグニンに守られているセルロースを効率よく分解するため、シロアリは大顎を使って木材を非常に細かく砕いてすりつぶし、自らもしくは共生微生物が分泌するセルロース分解酵素が作用しやすい状態を創り出しています。また木材腐朽菌のうち、褐色腐朽菌はリグニンを分解することはできず、セルロースを選択的に分解していきます。残存したリグニンが酸化等で変質するため、褐色腐朽材は褐色を呈しています。一方、白色腐朽菌はセルロースだけでなくリグニンも分解できます。白色腐朽材は褐色腐朽材と比較して、リグニンが分解されていますがセルロースの残存率が高く、白っぽい色をしているのが特徴です。3.リグニンの利用 リグニンは従来から製紙工程で得られる廃棄物という扱いで、主として燃焼させて熱源とされる程度で、その他は界面活性剤や土質改良剤として利用される程度でした。ところが近年、石油資源枯渇への危機感からリニューアブル資源として木質系バイオマス資源が脚光を浴び、エネルギー源および各種機能性材料の原料として木材が見直され、リグニンもプラスチック、鉛蓄電池添加剤など新たな機能性を付与した利用法が次々と報告されています。森林総合研究所 大村 和香子木材の知識木材の性質 ?その2?第四回写真 上質コピー用紙(左)と段ボール紙(右)CCC(H3CO) (OCH3)OH図  p-ヒドロキシフェニルプロパン構造(文献1)より)── 化学編 ──(リグニン)引用・参考文献1) 木材化学講座4 化学(1993)、海青社 pp.166.2) 木材工業ハンドブック 改訂4版(2005)丸善 pp.12213) 木材科学ハンドブック(2006)朝倉書店 pp.435.4) 森林と木材を活かす事典(2007)産調出版pp.5275) ウッドケミカルスの新展開(2008)シーエムシー出版 pp.281agreeable No.24 october 2012/10 6