ブックタイトルagreeable 第25号(平成25年1月号)

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概要

agreeable 第25号(平成25年1月号)

何も無いとなるとそうはいきません。ただ、幸いなことに床に見られた「虫が食べたような跡」については、お婆さんが床面のベタつきを自ら取り除こうとタワシでゴシゴシ擦ったことに起因する表面の剥離であることが判明しました。また、「靴下やセーターの中の白い虫」についてもビニル袋に入った靴下を調べてみてそれが何か判りました。お婆さんはいわゆる潔癖症で、毎日身体をゴシゴシ洗っていたため皮膚が極度に乾燥し、「粉ふき肌」になっていたのでした。つまり、靴下やセーターの中の白い虫とは、乾燥肌で粉ふきした皮膚の一部だったのです。同時に「身体から出てくる白い虫」についても、同一犯4 4 4 であると断定しました。 これらを踏まえ、改めて前述の聞き取りした結果を確認してみるとある興味深い事に気付きました。「お婆さんは小さなものが見えていない。」お年寄りで老眼なので当然のことかもしれませんが、この正常に見えていなかった事こそが様々な言動の発端だったのです。お婆さんは眼鏡をかけるのが嫌いとのことで、常日頃から裸眼で過ごされていました。そのため、白い小さな皮膚片や床面の剥離跡に焦点が合わず、虫が居ると感じたのでした。それを老眼鏡や虫眼鏡で再確認する間もなく、得体の知れない物体に恐怖し怯えていたのです。そして、その状況を他人に伝える際の表現が、それを聞いた誰もが異常と感じる言葉として発せられていたのでした。 ◎変化の無い空間 床面や手の届く範囲は異常なまでに清掃されていたため、手の届かない範囲に注目してみることにしました。ハウスクリーニングを依頼しているとはいえ天井付近の空間は手つかずのままだろうと思い、何か見つかるかもしれないと考えました。そこで、浴室天井にあるという「卵」について調べてみることにしました。浴室内は天井も含め、全面をシャワーで洗い流したとのことで卵らしいものは何もありませんでした。照明カバーを取り外して中を見たところ、小さなクモがたくさん死んでいました(写真1)。これを踏まえ、「浴室天井の卵」というのは、クモの卵のうだったと断定しました。そして、クモが浴室で発生した理由については、外に干していた洗濯物を急な悪天候時に浴室に取り込んで部屋干しした際、洗濯物と共に持ち込まれたものと考えました。同様にリビングについても照明カバーを取り外してみたところ、中からヒメカツオブシムシの幼虫と成虫が見つかりました(写真2、3)。このことから、「リビングの照明にうごめく虫」とは、カバーの内側に入り込んで脱出できずに歩き回っていたこれらの虫だったのだろうと結論付けました。ここまでの調査と診断結果についてはおおむねご理解頂き、ご安心いただけました。 ◎意外な虫 残すは虫刺され症状のみです。これについてはなかなか答えが見つけられませんでした。当初、お婆さんの乾燥肌に起因する痒みや痛みではないかと思い、想定通りの回答が得られるよう誘導尋問4 4 4 4 してみたのですが、ことごとく否定されてしまいました。お婆さん曰く、「確かに虫は居た」とのこと。しかしながら、家中のどこに居ても虫に刺されるというのは穏やかではありません。もしこれが本当ならば、諸々の症状を引き起こす虫がそれなりに多発生していなければ起こり得ないのです。視点を変え、今度はヒゼンダニによる疥かいせん癬症を疑いました。高齢者施設や病院で時折問題になる皮膚疾患です。しかし、この点についても皮膚科医による診察結果が既にあり、ヒゼンダニの感染は無いとのことでした。 答えが導き出せないまま改めて手つかずの空間である天井を見渡していると、もう一つ、未調査の場所がありました。玄関です。入室時の厳戒態勢ですっかり見過ごしてしまいましたが、玄関に一つだけガラスのカバーのついた照明があったのです。これを外して視てみるとお婆さんの言う通り、夏ごろから発生して毎日のように刺し、どの部屋にも容易に移動することができる刺し こうせい咬性昆虫が他の複数の虫とともに確認されたのです(写真4)。その刺咬性昆虫は寄生蜂の仲間「シバンムシアリガタバチ Cephalonomiagallicola AshmeadとキアシアリガタバチLaelius yamatonis Terayama」の2種(写真5)。そして、ともに大量に見つかったのはシバンムシアリガタバチの宿主であるタバコシバンムシでした(写真6)。写真1 浴室照明器具内で発見されたクモ写真2、3 リビング照明器具内で発見されたヒメカツオブシムシ幼虫と成虫agreeable No.25 January 2013/1 12