ブックタイトルagreeable 第25号(平成25年1月号)

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概要

agreeable 第25号(平成25年1月号)

森林総合研究所 桃原 郁夫木材の知識第五回1.はじめに 正しく使えば木材が非常に長い年月にわたって建築部材として使用可能であることは、法隆寺などの例からも明らかです。一方、木材は自然生態系の観点から見ると枯死材に相当するため、木材を自然生態系の分解者(木材腐朽菌やシロアリ)の好む環境に放置すると、容易に水と二酸化炭素にまで分解されてしまいます。 ここでは四回に分けて、木材腐朽菌やシロアリなどの分解者から建築部材を護るための方策について、広い観点から説明していきたいと思います。2.使用状態と生物種 木材の使用状態と生物劣化を引き起こす生物因子との対応については、長年にわたる国際的な議論の結果、2007年に「木材および木質材料の耐久性─ユースクラス」としてISO 21887にまとめられています(表1)(引用文献1、2)。ISO 21887では、水に触れている時間が長いほどユースクラスの区分の数字が大きくなっています。また、ユースクラスの区分の数字と生物因子との関係については、ユースクラスの区分の数字が大きくなるほど木材の劣化に関わる生物因子が増えるという考え方となっています。 建築に使用される木材は、常時乾いた場所(居室内)、時々湿る場所(脱衣室)、常時湿る場所(地下水位が高い地域における防湿措置の取られていない床下)、雨水のかかる場所(玄関ドア・下見板等)、常時水分が供給される場所(柵の支柱)等々、多様な状態で使用されるため、木材を分解する生物種も使用状態に応じて異なることになります。 このため、住宅部材の保存処理を考える場合には、住宅部材が置かれた環境の区分の数字がより小さくなる(水に触れる時間を短くし、含水率を出来るだけ低く保つ)よう設計・施工時に配慮することで、木材の分解者が住宅を加害する機会を減らせることになります。 保存処理といえば直ちに防腐・防蟻処理を思い浮かべる方も多いと思いますが、広い意味での保存処理を考える場合には、建て方に配慮し各使用部材のユースクラスの区分の数字が小さくなるよう計画するとともに、雨水等の浸入が生じないよう丁寧に、手順に誤りのないよう施工することが大切です。3. 住宅に関わる法律と保存処理 日本の住宅は各種の法律によって保存処理の基準が定められています。ここでは「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」を例に保存処理等の考え方を見ていきましょう。 品確法は、建築基準法の基準を超えた耐久性能等を持つ住宅を第3者機関が評価する方法や、評価した性能を住宅性能表示基準に則って表示する方法を定めた法律です。 品確法の評価方法基準を示した告示(引用文献3)には、先のISOの使用区分の考え方に近い概念が取り入れられていて、構法的工夫による広義の保存処理をすれば、狭義の保存処理(薬剤による防腐・防蟻処理)をしなくても生物劣化に対して最も高い性能を持つと評価されることも可能となっています。 品確法の評価方法基準の中から外壁の軸組等の部分を抜粋して図示したのが図1です。この図に基づき品確法の考え方を確認してみましょう。 まず、品確法の劣化対策等級では通気層の有無により最低基準を満たす要件が大きく異なっているのが分かります。さらに、軸組の小径(太さ)を大きくすることで、その他の要件を緩和することが可能となっています。広義の保存処理を採用することで、狭義の保存処理(薬剤による保存処理)を省きながら、最も劣化対策等級の高い(耐久性能の高い)住宅とすることも可能だというのが品確法の考え方になります。4.有効な防腐・防蟻処理 品確法では柱を太くすれば樹種に関わらず保存処理が不要になるとはいうものの、土台寸法との兼ね合いなどから、劣化対策等級のためにむやみに柱を太くするのは現実的ではありません。このため外壁の軸組や土台には保存処理を施すことも良くおこなわれています。そこで次回以降、木材保存剤を用いた防腐・防蟻処理木材について説明していきます。参考文献1) ISO 21887 Durability of wood and woodbased products-Use classes(2007)2) 土居修一、木材保存、34、231-233(2008)3) 平成21年 国土交通省告示第354号図1 品確法による外壁の軸組の基準の考え方大壁で劣化対策等級3(最も耐久性が高い住宅の等級)及び劣化対策等級2を満たすための基準(抜粋)JAS K3相当以上の防腐・防蟻処理何らかの有効な防腐・防蟻処理耐久性D1の樹種劣化対策等級3通気層小径12.0cm未満小径13.5cm未満樹種不問有NN無YYその他不問劣化対策等級2通気層小径12.0cm以上何らかの有効な防腐・防蟻処理耐久性D1の樹種無NN有YYその他不問その他不問表1 ユースクラスの区分と生物因子との対応表(文献1,2より作成)区分使用状態生物因子1 建物内部、乾燥木材穿孔虫、カンザイシロアリ2 建物内部、湿潤木材穿孔虫、表面汚染・変色菌、腐朽菌、シロアリ3 屋外、非接地木材穿孔虫、表面汚染・変色菌、腐朽菌、シロアリ4 接地、淡水3の生物種+軟腐朽菌5 海4+フナクイムシなどの海虫類上記の使用例で、通常考えられるより劣化の危険が大きいと想定される場合には、上位の使用環境区分を割り当てることができる。なお、地域、使用条件によってはリスト中の生物因子全てが存在するとは限らず、経済的にあまり重要でない場合もあるので、全ての生物因子に対する防御措置をとらなければならないということではない。木材の保存agreeable No.25 January 2013/1 4