agreeable 第52号(令和元年10月号)
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マイクロカプセル剤についてマイクロカプセルの製造方法第4回目は、マイクロカプセル剤についてご紹介いたします。マイクロカプセル剤は、シロアリ防除薬剤の中でも他の剤型にない特徴ある剤型です。ここではマイクロカプセル、その製造法、また実例を元にマイクロカプセル化の効果についてご紹介します。マイクロカプセルは図1の様な、物質を膜で包んで直径1umから1㎜程の微小な球状に成型したものです。ミクロの大きさの卵やイクラをイメージしていただけると良いと思います。卵の殻にあたるカプセル表面を“シェル”や“壁材”、卵黄、卵白に相当するカプセルの中身を“コア”や“芯物質”と呼びます。マイクロカプセルは1950年代に産業利用され始めました。アメリカの企業がインク物質を封入したマイクロカプセルを用いた感圧複写紙、いわゆるノンカーボン紙を商品化しました。感圧複写紙はインク物質を封じ込めたマイクロカプセルを塗布した紙と、発色剤を塗布した紙から構成されています。筆記などで力を加えた際に、塗布されたマイクロカプセルが壊れ、内部のインク物質が漏出します。このインク物質が、別の紙に塗布された発色剤と化学反応する事で発色する仕組みになっています。その他にも、マイクロカプセルは身近なところで使用されています。例えば、複写機のトナーや、香料や香油をマイクロカプセル化したものが、化粧品や食品分野で使用されています。なぜ、マイクロカプセル化するのか?という事ですが、芯物質をカプセルに封入すると、外部環境から遮断する事ができます。カプセル化により、酸素や水が存在する環境では不安定な物質、混合により反応する物質、常温で揮散しやすい物質を安定化することができます。これにより、化学反応の制御や、薬剤の分解抑制による長期残効性の付与、臭気や毒性の低減が可能になります。また、カプセル化による芯物質の保護と、必要なときだけ薬剤を放出することで、薬剤使用量の低減が期待できます。加えて、液状の物質をマイクロカプセル化し、これを乾燥して粉末状にすると、液体の物質を固体として取り扱うことも可能になります。マイクロカプセルの製造方法は機械的製法、物理化学的製法、化学的製法に分けられます。製法によりマイクロカプセルの性状が変わり、目的の使用法により製法を選択します。機械的製法は噴霧乾燥法や気中懸濁被覆法が知られています。物理化学的製法は液中乾燥法やコアセルベーション法があり、化学反応によらない凝固・析出によりカプセル壁を形成する方法です。先述の感圧複写紙に用いられたマイクロカプセルはゼラチンを用いたコアセルベーション法でつくられました。また、化学的製法は界面重合法や合とは1種類以上の化合物を化学反応により結合し、元の化合物よりも分子量の大きな化合物を生成することで、この反応を重合反応と言います。重合する為の原料である低分子化合物をモノマー、重合によりできた化合物はポリマーや高分子と呼ばれます。界面重合法は、芯物質を包んだ粒子の表面に重合反応を利用しポリマーを形成させてマイクロカプセルを製造する製法です。殺虫剤のマイクロカプセル製剤in-situ重合法があります。重では、工業的に安定な製造ができ、またマイクロカプセルの大きさ(粒径)や膜の厚み(膜厚)を調整しやすい界面重合法が良く用いられます。界面重合法によるマイクロカプセルの製造法をご紹介します(図2)。まずは、有効成分を適切な濃度になるように溶剤に溶かした油相と、水などの分散媒に乳化を調製する分散剤を溶解した水相を調製します。次に水相と油相それぞれに反応して膜物質となるポリマーを生成するモノマー成分を混合します。これらの油相と水相をホモミキサーなどの攪拌機を用いて混合、撹拌します。すると、水相に油相(もしくは油相に水相)が乳化分散した乳化液ができます。この乳化液を撹拌しながら加温すると、乳化粒子の表面(水相と油相の界面)で化学反応が生じます。この時、乳化粒子の表面(界面)でポリマーの膜ができ、有効成分を包んだマイクロカプセルを得ることができます。撹拌条件や分散剤の種類・添加量によりマイクロカプセルの粒径を調整したり、壁材になるモノマー量で、マイクロカプセルの強度に影響するカプセル膜の厚み(膜厚)を調整できます。界面重合法で調製した場合、マイクロカプセルは水中に分散した懸濁状態になります。この懸濁液に分離防止の増粘剤と、腐住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社 馬場 庸介第4回             4agreeable No.52 October 2019/10図1 マイクロカプセルの構造シロアリ防除薬剤の製剤について

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