agreeable 第52号(令和元年10月号)
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マイクロカプセルからの有効成分放出の仕組みの実例おわりに5agreeable No.52 October 2019/10敗抑制の為の防腐剤を添加し、また水等で濃度調整し最終製品とします。マイクロカプセルからの有効成分の放出は、膜からの拡散と、カプセル膜の破壊による放出に分けることができます。虫よけ成分として知られるディートのマイクロカプセルは、カプセル表面から有効成分が少しずつ揮散するように、膜の材質や膜厚が調整されています。ゴキブリ防除用マイクロカプセル剤ではゴキブリにより踏まれることや、体に付着したカプセルがグルーミング行動により口から取り込まれる際に体内で破壊されることが知られています。またシロアリ防除用マイクロカプセル剤は、シロアリが囓る物理的な力で破壊され、内部の有効成分が放出され、効果が発揮されます。対象害虫に適したマイクロカプセルの強度となるよう粒径と膜厚を調整し、強度を最適化し製品化されています。マイクロカプセル製剤昔から蚊取り線香などで使用された除虫菊から抽出されるピレトリンをマイクロカプセル化(写真1)し、シロアリ防除剤として実用化した事例についてご紹介します。ピレトリンは、高い殺虫効力を持つものの、環境中で速やかに分解しやすい化合物です。この為、残効期間が短いという特徴があり、長期間効力維持が必要なシロアリ防除剤では使用できませんでした。しかし、ピレトリンをマイクロカプセル化することで、シロアリ防除剤として耐える高い残効性を付与する技術が開発されました。以下に効力比較データをご紹介します。マイクロカプセル化していないピレトリン乳剤は60℃で2ヶ月保存した場合、シロアリに対する効力はほとんど失われました。しかし、ピレトリンのマイクロカプセル剤は60℃3ヶ月後も高い活性が認められました(重村ら2002)。また、自然環境下で数年相当の加速条件であるの、有効成分の残存率を分析したところ、ピレトリン乳剤は残存率2%と大変低いですが、ピレトリンマイクロカプセル剤は50%以上残存しており、マイクロカプセル化によりピレトリンが安定化されることを示しました。このように、残効性が低いピレトリンをマイクロカプセル化引用文献イクロカプセル製剤のシロアリに対する 重村太博、乾圭一郎:天然ピレトリンマ効果、木材保存30(₂),5155(2004)することで、長期の残効性が必要なシロアリ防除剤として適用が可能になりました。また、有効成分の毒性や魚毒性を低減し、安全性を向上させる効果についても知られています。このようにマイクロカプセル剤は、他の剤型以上に、有効成分をより使いやすく、欠点を補うことができる特徴的な剤型です。これまでの連載で油剤、乳剤、EW剤、FL剤、MC剤についてご紹介してきました。これらの剤型以外にも固形剤や、サスポエマルション製剤などご紹介できていない剤型もございます。種類が多く、理解が難しい製剤ですが、新しい有効成分の創出が難しい時代において、既存の化合物をより使いやすく、安全に使用する為の技術として製剤技術は大変重要になってくるものと思います。有効成分の違いだけでなく、各メーカーの製剤についても着目して、薬剤を見ていただけると、製剤技術者としては嬉しく思います。短い連載でしたが、拙い文章にお付き合いをいただきまして、誠にありがとうございました。図2 界面重合法によるマイクロカプセル剤の製造図3 天然ピレトリンマイクロカプセルのイエシロアリに対する残効性₁) 60℃で5ヶ月後に保管した後写真1 天然ピレトリンマイクロカプセル      ,-  

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