agreeable 第57号(令和3年1月号)
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刺激・感作性試験水産動物等に対する毒性に関する資料・急性神経毒性・眼一次刺激性・皮膚一次刺激性・皮膚感作性・変異原性・コイに対する急性毒性試験test前回(第7回)に続き、シロアリ防除薬剤の安全性についての後編です。薬剤暴露による、動物の神経系へ与える毒性です。薬剤を1回投与した後、14日間の観察を行い、神経系への毒性の特徴を調べ、その毒性変化の認められない最高投与量(無毒性量)を求めます。試験動物としては、通常、ラットを用います。薬剤の投与は、必要に応じて投与経路(経口、経皮、吸入)を選択し、方法は急性経口毒性試験等と同様です。観察・検査は、全身状態、異常行動・死亡の有無、体重変化を調べます。また、詳細な状態観察として、皮膚、被毛、眼、粘膜等の変化や、分泌物の有無等の外観や、体位、姿勢、震え、痙攣、自律神経系機能(流涙、立毛、瞳孔径、呼吸状態、排泄状態等)、運動協調性、歩行異常、刺激に対する反応、行動変化(探索行動、身づくろい等)、攻撃性等を観察します。さらに、機能検査として、聴覚、視覚等の種々の刺激に対する反応、握力、自発運動量を見ます。加えて、解剖のうえで、脳や神経系、眼球などの組織異常について病理学的検査が行われます。薬剤に対する苦情には、眼や皮膚への刺激が指摘されることも少なくありません。また、アレルギー源としても疑われることがあります。薬剤について、これらの影響の有無や、程度を調べることは安全性試験として重要です。薬剤が眼に入った場合に、炎症を起こしたり、痛みを生じる刺激性のことです。薬剤が誤って眼に入った場合に、炎症発生の有無などの障害の予測や、洗浄など応急処置による回復性を評価します。ウサギを用い、薬剤を片目に投与した後、経時観察(3日間、4回)を行い、角膜、虹彩、結膜、結膜浮腫等について評価し、刺激性の有無、程度を確認します。薬剤が皮膚に接触した場合に、紅斑や腫れなどの反応を引き起こす可能性について評価する指標です。皮膚一次刺激性はアレルギー反応による皮膚感作性と区別します。ウサギを用い、背中の毛を剃り、その部分にガーゼ等に処理した薬剤を4時間付着させ、その後72時間まで、皮膚の反応を観察します。その観察結果から、症状に応じて採点し、一次刺激性インデックスと呼ばれ数値を求めます。その数値から基準に基づき、無刺激性、弱い刺激性、中等度の刺激性、強い刺激性の4段階のいずれに該当するかを評価します。感作性(かんさせい)とは、薬剤がアレルギー反応を誘発する作用のことをいいます。薬剤のアレルギー反応の誘発有無を調べる試験を皮膚感作性試験といいます。試験にはいくつかの方法がありますが、モルモットを用いるマキシマイゼーション法が代表的な方法です。この方法はモルモットの肩甲部を除毛し、皮膚に薬剤を皮内注射し、薬剤に曝露させます。5〜7日後に再度薬剤を処理したパッチを48時間貼り付け、再曝露し、さらに14〜21日後に、別の部位に薬剤パッチを貼り付け、皮膚の反応を観察します。処理した薬物に感作性があると、脇腹のガーゼを当てた部分が赤くなったり、腫れたりする現象が現れます。薬剤が、生物のDNAや染色体などの遺伝子に突然変異を引き起こす性質を変異原性といいます。薬剤が変異原性を有するかを変異原性試験により確認し、薬剤の発がん性や生殖細胞に対する遺伝的障害を予測します。変異原性を確認する試験として、微生物を用いた復帰突然変異原性試験(エームス試験:Ames )があります。これは、大腸菌やサルモネラ菌を放射線で処理し、その遺伝子を改変し、トリプトファンやヒスチジンといったアミノ酸がないと成長できない変異株を作成します。この変異株に対して、試験薬剤を投与します。変異株が、成長に必要なアミノ酸が無い条件でも増殖できるようになれば、薬剤投与により遺伝子に変化が生じ、また遺伝子変化が増殖した菌の子孫に伝わった事が確認できます。本試験は簡便であり、かつ、信頼性が高いため汎用されています。薬剤が環境へ及ぼす影響を評価する為の試験として、水棲生物のうち、魚類にはコイ等を用いた急性毒性試験(いわゆる魚毒性試験)、エビ等の甲穀類の代表としてミジンコを対象とした急性毒性試験(ミジンコ急性遊泳阻害試験)があります。審査会への提出が求められる資料としては上記2点ですが、これらのほかにユスリカ幼虫に対する影響評価(急性遊泳阻害試験)や、藻類の生長阻害試験などがあります。水系の食物連鎖における高次消費者である魚類を対象とし、化学物質に96時間暴露した際の住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社 馬場 庸介            8agreeable No.57 January 2021/1シロアリ防除薬剤について第8回シロアリ防除薬剤の安全性について(後編)

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