agreeable 第57号(令和3年1月号)
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◎植物仕上げの集大成「ラコリーナ近江八幡」ています。シロアリは普通土台から来るわけですが屋根から入ってきて面倒くさいことがいろいろ起きているようです」 「昭和初期の古い建物を見に行った時に、シロアリが柱の裏側を食い上っているのを見たことがあります。白い幼虫でした。日の当らない側です。シロアリはどのようなところを好んで上がってくるのかは興味深く、意外な好みがあるとすればおもしろい。昔から家の土台がシロアリに食われるという害はあったわけで、ご存知の方も多いと思いますが栗の木を土台に使うことでシロアリの被害を防いでいました。栗の木はタンニンが含まれていてシロアリは嫌がるんです。いわゆる渋ですよね。あとは土台を上げるという対策も取られてきました。高さは約30㌢。マラリアの蚊をどうやって防ぐかということでも30㌢より上には来ないということを聞いたことがあります。シロアリも羽アリですから蚊と同じ。30㌢というのがひとつの基準というのはおもしろいですね。生態系が変わっているのでこれからは50㌢に上がるかもしれませんが」薬液の防蟻についてはこう話します。  ii      「専門家の方々はシロアリの害を丹念に調べていると思います。今は土台に栗の木を使うということではなく、薬を使って防ぐことがほとんどです。これからは人間や自然界に影響の少ない薬液が開発されると思っていますが、戦後はこうした化学製品がドLamnated Tmber)推進施策もあって、高イツに負けているんです。ドイツの化学の力というのは優れていて、今でも日本で一般的に使われている防虫など木材の保護塗料としてのキシラデコール、オスモカラーというのがあるのですが、いずれもドイツの製品です。日本が遅れをとった一つの理由としては戦後に建築学会などで決議された木造建築の禁止があります。これは戦争による空襲で大規模な火災が発生したことを受けての措置です。今はこの決議も無効になっています。戦後に木造の建築の研究がもっと進んでいればこうした木材保護の技術開発も大きく変わっていたと思います」最近では国のCLT(集成材、Cross 層の木造建築が脚光を浴びています。CLTはインタビューの(上)でも触れましたが、3層、5層などの集成材で、ひき板(ラミナ)を並べたあと、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。建築の構造材、土木用材、家具などに使われてます。藤森氏は耐震耐火など厳しい条件がない限り、できるだけ木造で建物をつくりたいと話します。 「木というのは鉄やコンクリートに比べて弱いんですが味わい深いですから、木を使える時には出来る限り木でつくります。自然と科学技術を近接させる(建築に自然素材を取り込む)ことはそれほど難しくはなく、これまでなかったのは難しいというよりは考えた人がいなかったんじゃないでしょうか。やってみればそれほど難しいことではありません。ただ自然素材の取り込みにくらべ、建築緑化は難かしい。自邸のタンポポハウスのように屋根に植物を埋め込むのは大変です。そういう難しさはありますけれど、多分屋根ではなく地上でも同じなので庭に芝を植えている人は分かっていると思いますが、メンテナンスが大変なんです。屋根の芝にはもう雑草がたくさん生えますから本当に大変です。日本は夏に雨と気温の高い日が一緒に来るので雑草がとにかく伸びます。イギリスなどヨーロッパは庭の芝でも雨と高気温が別々の時期ですので、雑草が自然に伸びても膝の高さまでにはなりません。日本は世界的に見てもトップクラスと言っていいほど雑草の多い国だと思います」タンポポハウスで初めて、建築緑化に取り組んだが、屋根のタンポポがあっと言う間に雑草になってしまったことで、メンテナンスの重要さを改めて考えたと言います。その後ニラハウス、一本松ハウス、ツバキ城、ラムネ温泉館、ねむの木こども美術館、ルーフハウスなど屋根に植物を植える建築をつくり続けています。メンテナンスは建物の美しさにも直結するため「建築の美学」としても最大の課題だと指摘します。そして現在のところ、最終的に植物仕上げの集大成としてたどり着いたのが「ラコリーナ近江八幡」(4棟、15年〜16年)だと言います。和洋菓子のたねやグループがつくった建物です。メンテナンス体制もたねやのサポートでしっかりと確立されています。現在は建築の魅力も手伝って女性を中心に人気のスポットです。藤森氏は、木が目に見えるような建物が建ち並んだら、都市の風景ががらっと変わるだろうと話します。 「都市には木造の住宅がたくさんありますが、外観に木が全然見えない。これが見えるようになると風景が変わります。CLTをはじめとして目に見える木造が増えていくことを期待しています」11agreeable No.57 January 2021/1ラコリーナ近江八幡草屋根

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