agreeable 第59号(令和3年7月号)
10/23

仮設が人々の記憶に刻まれる意義シティプロモーションという大局観街並みをテレビ映像に取り込む 「仮設にこそオリンピックレガシーとしての意義を見出せると思います」。そう話すのは、ロンドン五輪が開かれた2012年、イギリスの設計事務所で馬術競技場の現場監理に携わった建築家の山嵜一也さんです。13年に帰国して設計事務所を主宰、ことし4月からは芝浦工業大学で教鞭を取っています。「ロンドン五輪の馬術競技場は仮設でしたが、ロンドンの中心地で世界遺産でもあるグリニッジ・パークにつくられました。その屋外スタジアムは、意図的に観客席の一角を開けて、歴史的建造物やロンドンの街並みを見せるようにしたことで、世界中のテレビに競技とともにその景観が映し出されました。観光をキーワードにしたシティプロモーションです」。新型コロナウイルスの影響で正式な開催決定は開幕約1か月前の6月21日でしたが、これでオリンピックレガシーの舞台が整いました。ロンドンと東京のオリンピックレガシーについて山嵜さんに聞きました。 「オリンピック競技大会のよい遺産(レガシー)を、開催都市ならびに開催国に残すことを推進する」。これは、国際オリンピック委員会(IOC)の憲法ともいえるオリンピック憲章第1章第2項に記されている規定です。近年、IOCが最も力を入れているテーマで、2012年のロンドン大会の開催地決定プロセスから立候補の段階でレガシーへの言及が必要になったと言われます。IOCによると、レガシーとは、長期にわたる特にポジティブな影響とされています。オリンピック開催によってつくり上げられたり、生じる有形・無形の次世代へ残すべき遺産を意味します。分野としてスポーツ、社会、環境、都市、経済の5つ、概念の軸として「ポジティブなものか、ネガティブなものか」、「有形のものか、無形のものか」、「あらかじめ計画したものか、偶発的なものか」の3つを挙げています。これらのことから、有形の遺産として新たにつくられるオリンピック施設や交通、通信インフラ、無形遺産としてスポーツ振興に充てる予算やオリンピックを開催することによる経済効果などが分かりやすいレガシーの例でしょう。山嵜さんはこうしたロンドン五輪開催の経緯を肌で感じており、立候補の時点から主催者がレガシーを強く意識した動き方をしていたと話します。 「招致の段階から開催都市にとってのプロモーションをしっかり考えていたと思います。シティプロモーションというものですが、その柱の1つが観光です。主催者側に全体デザインの大局観がありましたね。最も強く感じたのは、競技会場を見せることによってテレビ中継を通して発信しようとする発想があったことです。そこにフォーカスして競技会場をつくっているわけ    8 です」オリンピック憲章の有形無形のレガシーについて、ロンドンはさまざまな成果を上げており、開催翌年には報告書をまとめています。山嵜さんは、東京にオリンピックの開催が決まってから講演やメディアなどを通じて、同じ成熟した都市としてロンドンの成果が東京にも参考になるだろうと発信し続けてきました。しかし、日本の関係日刊建設通信新聞社記者 津川 学aagreeable No.59 July 2021/7山嵜さんロンドンオリンピックの馬術競技場(撮影:山嵜一也)建築家・山嵜一也さんに聞くロンドンと東京のオリンピックレガシー

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る