防腐・防蟻処理に用いる木材保存剤の審査・認定加圧注入処理された製材・木質材料を使う建築物で特に耐久性を要する部材には、高耐久性樹種を使うという選択肢が様々な仕様書などで示されていますが、それらの資源量や耐久性のバラツキなどから、防腐・防蟻性能を有する木材保存剤で木材や木質材料を処理して使うことが主流です。木材保存剤は、農薬における農薬取締法のような特定の法律で規制されておらず、構成成分が「化学物質の審査及び規制に関する法律」によって規制されているだけであり、製剤(有効成分原体と副成分で構成される製品)を製造者と使用者が自主的な判断に基づいて製造・販売・使用しています。現在では、学識経験者などによって構成された木材保存剤等審査会で安全性、性能などが審査された後、当協会あるいは(公社)日本木材保存協会(以下、保存協会)によってそれぞれの基準に則って審査・認定されています。審査では、加圧注入用、表面処理用ともに日本産業規格(以下、JIS)K1571:2010「木材保存剤―性能基準及びその試験方法」によって得られた試験結果に基づいて性能が評価されます。このJIS本文では、表面処理用、加圧処理用とも、室内試験では図1に示す手順で性能試験が行われます。耐候操作は、自然界での雨水や太陽熱の影響などを考慮したいわば虐待試験で、こうした虐待をしても防腐・防蟻効果が失われないということを立証するための重要なプロセスです。他方、このJISの付属書A(規定)による試験方法は、処理された試験片を60℃で7日間加熱するだけの虐待試験を行って、防腐・防蟻性能を調べる方法です。雨水によって洗われるような状況を想定しておらず、液体の水分が供給されないで突発的に高湿度の環境に置かれる部材を想定しています。腐朽は高湿状態が突発的に起こるところで発生するわけではなく、液体の水分が供給されて繊維飽和点を超えるような部材で発生・進行するので、この規定で認定された薬剤による処理は、防腐の観点からすればはなはだ心もとないといえます。したがって、この指針ではこの規定で性能があると認められた表面処理用木材保存剤は採用しないこととしました。防蟻効果については野外試験も課されます。表面処理用と加圧処理用では試験片の形状や暴露法が異なりますが、いずれも、試験対象の薬剤で処理した試験 ➡➡➡➡片をイエシロアリの生息している野外における暴露後に所定の性能を具備していることを証明しなければなりません。加圧注入処理は、木材保存剤を適切な濃度に希釈し、JISA9002:2012「木質材料の加圧式保存処理方法」に基づいて専門の工場で行なわれます。木材中への薬剤浸透性は、処理する樹種や心辺材等の組織構造、さらには木材含水率によっても影響を受けます。したがって、均一な薬剤浸透性を担保第6回元筑波大学 土居 修一10agreeable No.59 July 2021/7図1 JIS K 1571による防腐・防蟻室内試験方法の概略試験対象の薬剤で試験片を規定通り処理、室温放置乾燥耐候操作注入処理用:25℃水中8時間攪拌-60℃16時間加熱表面処理用:25℃静水5時間浸漬-40℃19時間加熱いずれの操作も交互に10回繰り返す60℃48時間乾燥後、質量を測定腐朽菌あるいはシロアリに暴露暴露後の乾燥質量を測定、腐朽あるいはシロアリによる質量減少を算出、薬剤の性能を評価「木造建築物等防腐・防蟻・防虫処理技術指針・同解説」について防腐・防蟻処理の方法加圧処理と表面処理(前編)
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